世界の教室から 北欧の教育最前線(6)何のための目標と成績か?

スウェーデンでは幼稚園から成人教育に至るまで、公教育が無料である。成人教育では、さまざまな職業教育や趣味・文化の学習のほか、小・中・高校で提供されている科目が成人向けに提供されており、20歳以上のスウェーデン住民は誰でも履修できる。そこで筆者もスウェーデン語講座を受講し始めた。今回は、その履修説明会で驚いた「評価」について書いてみたい。


全国共通の評価基準

講座では、修了時にAからFまでの成績がつけられる。Aが最も良くてEまでが合格、Fは不合格である。A、C、Eを取るための評価基準は、数個の観点について、全国共通の規定として教科・科目ごとに文章で定められていて、到達度がAとCの中間あたりだとBになる。この絶対評価による成績の付け方は、成績をもらい始める小学校6年生から成人教育に至るまで、すべての教科で共通である。

かつては正規分布に基づく相対評価で成績がつけられていたが、1990年代以降、学習指導要領、ナショナル・テスト、全国共通の評価基準と連動して評価方法の改革が行われ、現在では絶対評価による成績付けが定着している。

筆者はこうした一般的なシステムは理解していたが、履修説明会ではこれに加えて、AからEの内で「自分の目標」を設定するように言われた。Aが最良なのだから、取りあえずはAを目指すのが当然だろうと思っていた筆者は面食らった。ここでEを設定したら、やる気がないことをアピールしているのではないだろうか。それ以上の成績はつかないのだろうか。Aを設定した場合と何が変わるのだろうか。履修説明会に出席していた他の受講生からも質問が出され、しばらく質疑応答があった。

評価基準表

一人一人に応じた指導

教師の説明では、目標をEに設定しても、課題の出来がよければそれ以上の成績がつくという。目標によって変わるのは、教師のフィードバックだ。目標がAの受講生には、それに到達できるようなコメントを、Eの受講生には、それに応じたコメントを返すらしい。学習動機やニーズが異なる受講生に対して、それぞれに応じた指導をするには合理的なシステムと言える。無意識に、全ての受講生に同様に丁寧なコメントを返すのが良いと思っていた自分の価値観を反省させられた。

さらに驚いたのは、選ぶ目標についてだった。ある受講生が苦笑しながら教師に言った。「Aを目標にする人なんているの?」と。Aと書くなど、高すぎる望みだというのである。他からも、「言葉が似ている北欧の人たちくらいしかできないのではないか?」と笑いがこぼれた。Aはなかなかとれるものではないらしい。

それに教師は同意しながらも、「適切な目標設定は受講理由によって違うから、標準的な目標や推奨する目標はない。評価基準を読み、自分のニーズや状況に応じて目標を決めるように」と伝えた。

常に最高の成績に挑戦することを推奨するのではなく、あくまでも受講生に合わせて学習を進めようとする、学習に向かうストレスの少なさを感じた。

目標も評価も自分で利用

なお、それでも筆者は一応個人目標をAに設定して講座を始めたが、毎回の課題に返ってくるのは、「理解できる文章を書けています」程度の短いコメントと、評価基準表へのチェックだった。高い目標設定でもコメントが素っ気ないことに拍子抜けしつつ、その代わりに、自分の状況を確認し、次の課題で何に気をつければいいのか考えながら、評価基準を丁寧に読むことになった。目標も評価も、自分の学習のために自分で利用するものなのだと強く思わされた。

スウェーデン語の上達もさながら、成績や評価基準、そしてフィードバックの見方の変化を強く感じた講座履修だった。

(本所恵=ほんじょ・めぐみ 金沢大学人間社会研究域准教授。専門は教育方法学)

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