世界の教室から 北欧の教育最前線(7)インターネットで学校が買える

大手オークションサイトに学校が出品される

2012年初頭、ネット上に学校の設置許可証が出品されて話題になった。

Blocketはいわば「売ります・買います掲示板」といった作りのウェブサイトで、引っ越しでいらなくなった家具や食器、子供服や中古車など、さまざまなものが出品されている。スウェーデンでは物価が高いことや環境マインドが浸透していることなどが手伝って、不用品を融通し合うのが盛んで、Blocketは市民に広く利用されている。

そのサイトに、6年生から9年生(日本の小学6年生から中学3年生に相当)180人が通う予定の、マルメ市内の自立学校(運営費の大半が公費で賄われる私立学校)の設置許可証が売りに出されていたのだ。

この学校は株式会社によって設置申請が出され、2010年には学校監査庁から設置許可が出ていた。学校監査庁は、「法律の『抜け穴』があった。このような事態は初めてだが、違法とは言えない」として、許可証を買った人は誰でも学校運営権を手に入れられることを認めた。教育大臣は、会社に許可を与えるのではなく会社の所有者に許可を与えるように法改正を行い、このような事態が起こらないよう対処したいと述べた。

17年2月には、ストックホルム近郊のエーケロー市がサンドゥッデン基礎学校をBlocketに売りに出して、再びメディアの関心をひいた。出品広告には、市議会が3月7日に売却先を決定することや、穏健党議員の実名など、かなり具体的な内容が記されていた。しかし3日後には、これがフェイクニュースであることが判明し、批判記事が掲載された。何者かが問題提起のために起こした政治的なアクションだったとみられている。

市場化が進む学校経営

学校経営をめぐるスキャンダルはたびたび起きている。ストックホルム郊外の公立学校では、校長が自分の学校を自分の会社に売り、自立学校に転換して「乗っ取る」という事態があった。この契約には市議会の議決が必要だが、右派が多数を占める議会では「小さな政府」を目指して、公的機関を市場化する動きが活発にみられる。

スウェーデンの多くの自治体では、生徒1人当たり100万円程度の補助金 (skolpeng)を、学校に在籍する生徒数に応じて割り振る疑似バウチャー制度を採用するところが多く、うまくやりくりすることで継続的な利益が得られる。このため学校経営への企業参入が相次ぎ、複数のブランドを傘下に持つ巨大な学校チェーンが生まれている。

これらの自立学校には、成績を甘くつけたり、教員の数や質がそろっていなかったり、施設が基準を満たしていなかったりするケースが見られ、利益優先だと批判されることが多い。また、学校のM&Aが報じられると、生徒を「かた」にとってskolpengを取引する「人身売買」だと揶揄(やゆ)される。

一方で、公立学校に対する不満は根強く、地域の学校を避けるようにして自立学校を選ぶ生徒や保護者も多くいる。

自立学校の倒産

旧JB高校の建物には別の学校が入居している

スウェーデンの自立学校制度は、企業や宗教団体、保護者を含め、誰でも設置申請ができ、利益を得ることが認められている点に特徴がある。また、多くの自治体が疑似バウチャー制度と学校選択制を採用していること、ナショナル・テストの成績や学校監査の報告書、保護者アンケートの結果などがネット上に公開されていて、開放的な制度になっている。

公立学校の質に懸念を抱く自治体では、具体的な案件がないのにもかかわらず、市議会で意図的に自立学校招致の議論を起こし、公立学校に競争のプレッシャーを与えようとする動きもある。

一方で、自立学校が倒産した場合には公立学校が生徒を引き取ることになっている。学校チェーンのジョン・バウアー高校(JB高校)の事例では、2013年のある日、運営会社の倒産が突然発表され、全国の30校で1万人以上の生徒が「路頭に迷う」ことになり、地域の公立学校では大きな混乱がしばらく続いた。

JB高校の倒産以前は、スウェーデンの自立学校は優れた制度として海外のメディアでも頻繁に紹介された。イングランドは特に積極的で、議会でも大きく取り上げられた。現在では一部のアフリカ諸国で開発支援の枠組みとして採用されている。

スウェーデンは実験国家だと言われるが、かつて社会主義大国として名のあった国とは思えないような、驚くべき事態が進行している。

(林寛平=はやし・かんぺい、信州大学大学院教育学研究科准教授。専門は比較教育学、教育行政学)

 

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