世界の教室から 北欧の教育最前線(8)増える学校の特別食

平等と要望のせめぎあい

日本では、子供たちの遠足には親の手作り弁当がつきものだ。家事全般が苦手な私としては、たいしたメニューでもないのに、遠足の一週間も前から気をもんでしまう。子供をスウェーデンのプリスクールに入れて感動したのは、遠足の日も家からお弁当を持って行かなくていいことだった。先生いわく、「みんなが同じものを食べることが大事なんです。昼食のことは私たちが全部準備しますよ」。当日は、引率の先生方の1人が手押し車に食べ物、飲み物、そして食器を載せて遠足に出掛けていった。


平等な社会のための平等な学校給食

スウェーデンでは1946年に、国のお金であたたかい学校給食を提供することが議会で決められた。その理由は多角的で▽子供たちが同じ食事を得ることで、社会の平等をより促進する▽お弁当作りを含む家事から、女性を解放する▽悪い食生活や栄養失調を防ぐ――などであったという。

その後、60年代にその責任は国から自治体にうつり、現在では基礎学校(日本の小・中学校に相当)、養護学校、サーメ学校(先住民族サーメ人のための学校)で、「栄養が十分にある食事」を「無料で」提供することが学校法で規定されている。全ての子供に対して平等な教育を提供し、それを通して平等な社会を形成しようとした、スウェーデンの学校に対する哲学が、ここにも表れていると言えるだろう。

高校の給食は法制化されていないが、ほとんどの自治体が提供している。プリスクールについては、学校庁のガイドラインにおいて、バリエーションに富んだ栄養のある食事やおやつを、1日のうちあまり長い時間を空けずに提供すべきであることが示されている。

多様な給食メニュー

典型的な学校給食の様子

ウプサラ市の場合、給食のメニューは市で共通して決められていて、メニューはオンラインで見ることができる。例えば主食としてはスパゲティミートソース、ミートボール、魚のグラタンなどが日替わりで提供されている。同市ではそのほかに毎日ベジタリアンメニューも提供されており、それを選ぶこともできる。

給食でベジタリアンメニューが出るというのは、日本ではあまりなじみがないかもしれない。日本でもアレルギーを持った子供に対する特別食はあるが、スウェーデンではそのような医療的な理由以外に、宗教的あるいは倫理的な理由から特別食(Specialkost)を希望することができる。

例えば「イスラム教徒のため豚肉を食べない」「倫理的な理由でベジタリアン食にしている」といった理由である。同市の場合は、そういった子供たちのために毎日ベジタリアンメニューが提供されており、選べるようになっているわけだ。市の学校給食サービスについてのウェブサイトでも、特別食の希望に対してできる限り解決策を模索したいと記している。

増える特別食に歯止め?

しかし、こうした特別食への要望が増えていくにつれ、それをどこまで許容するかが、しばしば議論に挙がっている。例えば、ウプサラ市の北にあるイエーブレ市では、2017年からベジタリアン食よりもより厳格なビーガン食の提供をやめた。理由はコストがかかりすぎることと、特別食が多くなることで、提供する側(調理人や教職員)の負担が大きくなりすぎ、深刻なアレルギーをもつ子供たちへのリスクが増えるということである。

クラムフォーシュ市では、16年時点で給食の25%が何らかの特別食になっており、市の担当者は「持続できる状況ではない」と苦言を呈した。食料廃棄物の問題や、特別食を用意するためのコスト、そして本当に深刻なアレルギーがある子供たちへのリスクなどに言及している。

子供が自分に必要な食に平等にアクセスできることが、スウェーデンの学校給食制度の背景にある考え方だとすれば、個別の要望に対応していくことも重要な要素になるだろう。先に述べたプリスクールの先生の言葉も、子供たちが文字通り「同じもの」を食べるというよりは、家庭による差が出ないように「その子に必要なものを平等に与える」という意味合いだと解釈される。

しかし、細かい個別の要望が際限なく増えていくとなれば、いろいろな面でコストが上がり、全体としての利益が損なわれてしまうことにもなりかねない。

全ての子供に平等な機会を提供することと、個別の要望に対応していくこと。このせめぎあいが、学校給食においても表出している。

(中田麗子=なかた・れいこ ウプサラ大学教育学部客員研究員。専門は比較教育学)

 

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