高校英語教育と大学入試(3)実践的な英語力の育成


ココネ言語教育研究所所長、慶應義塾大学名誉教授 田中 茂範

英語教育の高次の目標は、多文化共生時代を生きる上で必要になる主体性や多様性に向き合う力、協働する力を育てることである。平易な言葉で言えば、「たくましさ」と「しなやかさ」を備えた人間の育成だ。自分で考え判断し行動するというたくましさと、違いと向き合うしなやかさを育むことである。

これを英語教育で考えると、たくましさは自己表現力、しなやかさは対話力ということになる。国連のアナン元事務総長は、2013年のカナダ・オタワでの演説の中で、「多様性は個性の現れであり、力の源泉だが、偏見や差別、紛争の原因でもある」と述べている。多文化が共生するには、非寛容や過激主義という問題を乗り越えるための対話が必要だと主張している。

この高次の目標を前提に、英語教育の教科目標を設定しなければならない。教科目標を一言でいうなら、生徒一人一人の英語力を育てるということに尽きる。ここで言う「英語力」とは、英語を実践的に使うことができる力のことだ。具体的に言えば、「英語力」は、タスク・ハンドリングと言語資源のダイナミックな関係として捉えることができる。

例えば、タスク・ハンドリング(CAN-DO)と言語資源(CAN-SAY)という関係だ。英語力とは、どういったタスクをどれだけ機能的に、英語の言語資源を使ってハンドリングできるかにかかっている。タスク・ハンドリングはcan-doに相当し、言語資源(language resources)はcan-sayに相当する。英語教育の課題は、生徒の言語資源を豊かにするだけでなく、タスク・ハンドリング力を育てることにある。

言語資源には、語彙(ごい)力、文法力、慣用表現力の三つが柱として含まれる。ここで「資源(resources)」という言い方に注目したい。資源とは、タスク・ハンドリングで利用可能なものであり、単語や文法を知っていても実際の言語活動で使えないのは、資源になっていないことを意味する。単語や文法の知識はあっても、それが単語力、文法力になっていないということだ。

タスク・ハンドリングは、表現モードを使って行われる。ジェスチャーや表情など非言語的なモードも重要だが、英語教育の要は言語的なモードである。それには、声としてのspeakingとlistening、文字としてのwritingとreadingがある。

多くのタスクは複数の形式で行われるのが常である。speakingという表現モードを使って行うタスクには、「値段の交渉をする」「事物の説明をする」「ある出来事を報告する」が含まれる。

英語教育の常識の一つである「4技能の発想」では、speakingそれ自体が学習目標として捉えられる。だが、speakingは表現のモードであって、それ自体は目的を伴わない。

speaking taskと呼ぶことで、初めて話す目的が生まれるのである。

筆者は、これからの英語教育は、4技能ではなく、四つの表現モードを使ったタスク・ハンドリング力の育成に注力しなければならないと考える。

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