高校英語教育と大学入試(4)CEFRとは何か


ココネ言語教育研究所所長、慶應義塾大学名誉教授 田中 茂範

CEFR(セファール)という言葉が英語教育でもよく使われるようになってきた。これは、Common European Framework of Reference for Languagesの略語。欧州評議会のジョン・トリムが率いたモダンランゲージ・プロジェクトが、1991年に欧州の言語教育の指針として発表したものである。今では、その評価基準(grand scale)のBasic User(A1、A2)、Independent User(B1、B2)、Proficient User(C1、C2)が欧州だけでなく、中国、日本、チリなどでも使われるようになってきている。

わが国でCEFRの基準が広まったきっかけの一つは、上智大学言語教育研究センターの吉田研作センター長と筆者が実施したNHK英語番組でのCEFRレベルへの対応作業からだ。今では、英検の準1級はB2レベルで、1級はC1レベルに相当するといった具合に、英語力の評価基準のよりどころとされている。大学入試への採用が決まった民間試験の共通基準としても使われている。

このCEFRの基準は、実際のコミュニケーション状況を反映して行動目標を示すところに最大の特徴がある。評価基準の内容は、いわゆるCAN-DO記述(Descriptor)と呼ばれる。日本でもその影響を受けたCAN-DOリストが全国各地で作成されている。

欧州では、多くの移民を抱えているため、彼らの目的(ニーズ)に合った言語教育を提供するという言語政策が取られた。車工場で働く人、レストランで働く人、美容院で働く人など目的は多様だが、そのニーズに応えるということは、ある状況で典型的に使う意味や機能に特化した言語指導をすることである。

この「特定の目的のための英語(English for Specific Purposes)」(ESP)は、機能と意味を強調する試みであることからThe Functional-Notional Approachの事例と見なされるようになった。それは次第に、より射程の長いThe Communicative Approach、あるいは「Communicative Language Teaching(CLT)パラダイム」と呼ばれるようになった。こうした流れと同期して、評価の平準化を目指して開発されたのがCEFRである。CEFRとCLTの源泉は欧州評議会のモダンランゲージ・プロジェクトにあると言ってもよい。

CEFRでは、コミュニケーション能力を言語的能力だけでなく、語用的能力と社会言語的能力を加えた3本柱で定義する。言語的能力には、音声表現力や語彙(ごい)、文法力が含まれ、「言語的正確さ」が指標になる。対して、語用的能力では「内容的整合性」や「発話意図(依頼や提案など)の伝達性」、社会言語的能力では「言語使用における適切さ(改まり度など)」が重要な指標になる。

CEFRでは、これらの指標に注目しながら、習熟度レベル別に一般的記述(グランド・スケール)と個別的記述をしている。記述の背後には、Production(産出)とInteraction(やりとり)とReception(受容)の三つの活動タイプが想定されている。正確にはMediation(媒介)もあるが、ここでは考慮しない。例えば産出では、さらにSpoken ProductionとWritten Productionに分かれる。それぞれのレベルの記述やSpoken Productionの中には「プレゼンテーションを行う」といったタスクタイプがあり、それに関するレベル記述を行うという具合に「入れ子構造」の記述になっている。

一言で言えば、理論に裏打ちされた構造をしっかり考えたレベルの記述がCEFRでは行われている。われわれが独自のCAN-DOリストを作成する際にも、構造なきリストは、根拠のないその場限りのものになってしまうことに留意すべきである。