高校英語教育と大学入試(7)「単語力」の定義

ココネ言語教育研究所所長、慶應義塾大学名誉教授 田中 茂範

中高生に英語学習で大切なのは何かと問うと、必ず単語の学習が挙がる。単語を知っていれば、たとえ文法があやふやでも言いたいことは伝えられるが、知らなければ何も語れない。その意味では単語学習は不可欠である。

ただ教師に問うと、指導で困っているのもまた単語指導であるという回答が目立つ。実際、指導は単語帳を与えて定期的にテストをするといった具合に、生徒任せである場合が多い。もちろん、教科書を使った指導の際には新出単語の意味や用法を確認することがある。しかし、体系的な単語指導が行われているかといえば、否である。

単語学習は覚えるものという通念がある。確かにそうだが、大切なのはどう覚えるかである。大学受験のために6千語以上の単語を覚えたとしても、その後忘れてしまうか、せっかく覚えたのにほとんど使えないと感じている大学生も多い。単語を知っていても使えない、つまり、単語の学習が単語力の育成につながっていないということである。

そもそも「単語力」とは何か。知っている単語の数の多さではない。単語力の定義がないまま、単語学習が行われているところに英語教育の問題がある。

単語テストもしかりである。例えば、英検でもGTECでもTOEFLでもよいが、10問程度の文補充式の単語テストというセクションがある場合、それは何を測定しているのだろうか。単語力が操作的に定義されてはじめて妥当性の高いテストが作成できるし、体系的な単語指導も可能になる。単語力の定義なくして、単語力の育成はない。

筆者が考える単語力とは、基本語力と拡張語力から成り、基本語力が基盤となる。拡張語力は「どれだけの話題に対してどれだけの語彙(ごい)を理解できるか、あるいはどれだけの話題にどれだけの語彙で語れるか」と定義できる。話題の幅と語彙数による定義である。

ここで少し注目したいのは基本語力である。仮に500語程度(get、take、on、over、it、some、big、wayなど)を基本語に認定したとしよう。私は英和辞典の編集主幹を務めたことがあるが、たいていの英和辞典は10万語程度の単語を2千ページ程度の紙幅に収める。基本語500が占める割合は、全体の50%を優に超える。一つの基本語が2、3ページを占めるのは珍しくない。この事実は、基本語の意味の世界がいかに大きいかを物語っている。

基本語力とは「基本語を使い分けつつ、使い切る力」である。使い分けとは、意味的に類似した基本語を差異化すること、使い切りは、一つの基本語を過不足なく一般化して使うことを意味する。具体的には、speakとtalkを使い分ける、liftとraiseを使い分けるのが「使い分ける力(差異化力)」だ。putという基本動詞を「目薬を右目に差す」「82円切手を封筒に貼る」「軟こうを傷口に塗る」「鍋をコンロにかける」といった状況で使えるのが「使い切り(一般化力)」である。

「基本語力」というコンセプトが共有されてはじめて、語彙指導の対象が生まれる。さらに「使い分けつつ、使い切る力」と定義することで、差異化力と一般化力を高める指導が可能になる。