高校英語教育と大学入試(9)スピーキングにこだわる理由

ココネ言語教育研究所所長、慶應義塾大学名誉教授 田中 茂範

「2020年に大学入試が変わる」ことが話題になっている。現行のセンター試験から変更される「大学入学共通テスト」(以下「共有テスト」)である。共通テストの英語では、リーディング問題(80分)とリスニング問題(60分)が出題される予定だが、スピーキング試験に関しては実施が難しいとの判断から、民間試験の活用に踏み切った。そしていま、その活用割合が最大の関心事となっている。国立大学協会は民間試験の配点を「2割程度」と述べているが、実際は大学側に委ねるようだ。

利用可能な民間試験として認められているのはGTEC、英検、TEAP、TOEFL、IELTS、TOEIC、Cambridge Englishの7種類である。実施に際しては、「成績提供システム」が用意される。資格・検定試験の受検者が、高校3年生以降の4~12月の間に受検した2回までの結果が大学に提供される。受検生が民間試験の受検を申し込む際、あらかじめ大学入試センターから発行されたIDを記載することで、試験の実施主体から大学入試センターに成績が送付され、大学入試センターから大学に提供される仕組みだ。提供される成績には、試験のスコアとCEFRの段階別表示、合否判定が含まれる。

ここでCEFRのスケール(A1、A2、B1、B2、C1、C2)が出てくる。7種類の民間試験は設問内容も難易度もまちまちなため、ある種の標準化が必要になる。その手段としてCEFRのスケールを用いるというわけだ。例えば、英検の2級であればB1判定、準一級だとB2判定、GTECで1080点あればB1判定、1280点ならB2判定――といった具合だ。CEFRは独自のテストを実施しているわけではなく、あくまでも外国語教育の行動目標を定めているにすぎない。そのため、試験の実施主体が提出する成績に確たる根拠があるわけでない。標準化のための次善策だと考えておかなければならない。

以上が、英語の民間試験活用に関する現時点での内容になる。ここに若干のコメントを加えておきたい。本来は「4技能統合テスト」を大学入試センターで作成するという計画だったが、スピーキング・テストの実施・採点における実行可能性の低さが問題視された。何十万人もの受験生の発話データをどうやって集めるのか。集めたとしても、妥当性・信頼性・公平性・客観性をどうやって担保して、誰が採点するのか。ちょっと考えただけでも絶望的になる課題である。当初はコンピューターによる自動採点を検討したが、現実性を欠き断念した。

なぜそこまでスピーキングの評価にこだわるのか。それは、大学入試改革と教育改革は両輪という前提があったからだ。「入試が変われば、中高の英語教育の内容も変わる」という前提である。「何としてもスピーキング・テストを取り入れたい」思いを実現するため、白羽の矢を立てたのが民間試験だったのだ。ただ、民間試験を取り入れたからといって、妥当性・信頼性・公平性・客観性の問題が解決するわけでは決してない。

英語教育の根強い伝統を変えるには起爆剤が必要である。制度がいったん導入されれば、英知を結集して、難題も必ず解決に向かうはずである。新たな変化に期待したい。