小学校から高校までを1冊に「キャリア・パスポート」が描く軌跡(5) 対話的な関わりが重要

筑波大学教授 藤田 晃之

すでに述べたように「キャリア・パスポート」とは、「小学校から高等学校を通じて、児童生徒にとっては、自らの学習状況やキャリア形成を見通したり、振り返ったりして、自己評価を行うとともに、主体的に学びに向かう力を育み、自己実現につなぐもの。教師にとっては、その記述をもとに対話的にかかわることによって、児童生徒の成長を促し、系統的な指導に資するもの」である。

ここで特に重要なのは、児童生徒が自らの学びのプロセスを見通し、振り返りながら、自己評価するための教材だという点だろう。

埼玉県の「私の志ノート」(中学校版)

当然ながら、子供の成長・発達は階段を上るように直線的に生起するとは限らない。停滞、紆余(うよ)曲折する時期もあれば、一時的に後退しているように見える場合もある。だが長期的に見れば、それらは子供が成長する上で意味のある過程になることも少なくない。

教師による児童生徒への対話的な関わりは、とりわけ、このような「しんどさ」に直面しているときにこそ不可欠だと言えよう。各シートに記す教師のコメントはもとより、さまざまな機会を活用した言葉掛けやカウンセリングを通して、児童生徒が自己を肯定的に理解し、その後の学習や活動に主体的に取り組めるよう配慮することが重要である。

とりわけ、子供が思春期を迎えると、それまでの安定した自己像が大きく揺らぎ、自分の存在に価値を見いだせず、目標を見失いがちになることもある。同時に、自己開示に慎重になったり、大人からすれば些細(ささい)な出来事をきっかけに、自己嫌悪に陥ったりもする。

そうなると、子供がキャリア・パスポートに記録を残したり、振り返ったりするのを避ける恐れがある。所定の欄に「特にない」とだけ書き殴り、机に突っ伏す生徒などはその典型だろう。

このような生徒に、教師は自己イメージや将来の目標の揺らぎに直面すること自体が成長の証しだと伝えつつ、コメント欄に生徒が取り組んだことや力を注いだことをできるだけ具体的に多く記し、肯定的な観点からその努力を評価したいものである。

思春期にあっては、教師がどんな言葉を掛けても心を開こうとしない生徒が珍しくない。だが、キャリア・パスポートへのコメントは、時を超えて生徒を支え続ける特性を持つ。数年後、思春期を過ぎた生徒がコメント欄に目を通すとき、彼らは初めて教師の言葉をくみ取り、励まされるのである。