小学校から高校までを1冊に「キャリア・パスポート」が描く軌跡(8)国内の先進事例―世田谷区立尾山台小の実践

筑波大学教授 藤田 晃之

文科省が3月に出した事務連絡「『キャリア・パスポート』例示資料等について」は、2020年4月から「キャリア・パスポート」を全国的に導入するよう求めている。

尾山台小の「キャリアン・パスポート」

だが、同時に「準備が整っていたり、既存の取組で代替できたりする場合」は、各学校の判断で19年4月から先行実施できると明示している点を見落とすべきではない。教育委員会の方針やモデルの作成を待たずとも、学校ごとの創意工夫でキャリア・パスポートの取り組みを始めるのは十分可能である。

今回は、独自のポートフォリオ型教材を開発し、活用3年目に入った東京都世田谷区立尾山台小学校の事例を紹介する。

同校は他の多くの小学校と同様、児童一人一人の作文や学習の振り返りなどをクリアファイルに入れ、教室の壁に貼って活用してきた。

このファイルこそが16年12月の中教審答申が求めた「キャリア・パスポート(仮称)」の趣旨と軌を一にすると認識し、ファイルの役割を一層明確にするため、独自の「キャリアン・パスポート」を17年度の2学期から導入した。この名称は、同校のキャリア教育推進に向けたオリジナル・マスコット「キャリアン」にちなんでいる。

キャリアン・パスポートは、学年ごとに年間目標を設定する「めざす自分シート」の他、3シート程度の蓄積を前提に構想された。シートの蓄積には市販の20ポケットのクリアブックを選定し、各学年3ポケット使用することを全校の共通ルールとした。

年間最大6シートの格納が可能だが、学年間で引き継ぐシートを年度当初に決定するのではなく、さまざまな学習の振り返り記録を一度保存し、年度末に担任と児童が話し合った上で、引き継ぐ記録を選定している。

このキャリアン・パスポートの活用で同校が重視しているのは対話的な関わりで、具体的には、肯定的な視点で細やかに記述する教師のコメントと、個々の児童への言葉掛けである。前提には「ポジティブな記録を見返すことで自己肯定感が高まる。ネガティブな記録をそのままにしない」という共通理解がある。

キャリアン・パスポートは同校独自の取り組みであるため、中学校への引き継ぎ方法など課題が残されている。

だが今後、世田谷区としての方針が決定された後も、キャリアン・パスポートを通した教師と児童の対話的な関わりはこれまでの実践を基盤に、一層豊かなものとなって継続されるだろう。