新たな時代のキャリア教育(6)「教える」から「引き出す」へ

認定NPO法人キーパーソン21代表理事 朝山 あつこ

「まこちゃん」は小学4年生の本が大好きな男の子です。わが子が本好きだと親は「知識がたくさん身に付いて賢くなるわ」と本を買い与えたり、図書館に連れて行ったり、本を読む機会を熱心に提供するでしょう。とてもいいことですね。

でも、まこちゃんがすごいのは本が好きなだけでなく、読んだ本の素晴らしさを「みんなに知ってもらうこと」にわくわくすると気付いたところです。つまり、まこちゃんのわくわくエンジンは「本の素晴らしさを伝えること」だったのです。

さらにすごかったのは、まこちゃんのお母さんです。「まこは『伝えること』にわくわくするのか。そういえば、町の図書館でビブリオバトルが開催されていたぞ。参加者が集まらず苦戦しているみたい。それなら、まこをビブリオバトルに連れて行ってみよう」。そう考え、まこちゃんのわくわくエンジンが具体的な行動につながるよう提案しました。

結果はお母さんの思った通り。まこちゃんは、水を得た魚のようにビブリオバトルに夢中になっていきました。

本の面白さ、素晴らしさをわくわくしながら伝える小4の子どもに引き寄せられるように、町の人たちがどんどん集まってきました。人のにぎわいが後押しする形で活動は活性化し、この図書館は全国ビブリオバトル大賞を受賞しました。わくわくエンジンがまこちゃんをハッピーにし、町の発展にも貢献することとなったわけです。

わくわくエンジンは興味・関心がある対象(本)にとどまらず、「その素晴らしさを誰かに伝える」という行動にもつながるものです。キーパーソン21では、前者を「名詞的わくわく」、後者を「動詞的わくわく」と呼んでいます。わくわくエンジンは、人の行動やアクションにつながる動詞的なものなのです。

「わくわくすると人は能動的になる」。このことを否定する人はいないでしょう。自分の人生について考えるキャリア教育において、未来に向かうエネルギーの元は、子どもの外ではなく中にあります。子どもが自らのわくわくエンジンを発動し、主体的に考えて動くことができるよう、私たち大人は「教える人」ではなく「ファシリテーター」――子どもをよく見ながら、言葉に耳を傾け、引き出し、認め、伴走する存在――に徹します。

あえて「教えない」。それが子どもの中にあるエネルギーを引き出すことになり、その子の人生はもちろん、家族やクラス、学校、町の人の幸せにまでつながる。「教える時代」から「引き出す時代」への転換が始まっています。