星槎大学大学院教授 阿部 利彦
ユニバーサルデザインの視点を教育に取り入れるという考え方が、少しずつ学校現場に広がってきているのを実感しています。この夏も全国の研修に呼んでいただきましたが、ほとんどが「ユニバーサルデザイン教育」をテーマにしたものでした。
教育のユニバーサルデザインとは「教室環境」に関する取り組みである、という認識を持つ先生方がまだまだ多いように思われます。
私がいくつかの地域で実施した「教育のユニバーサルデザインに関する調査」においても、取り組みについては「黒板の周辺をすっきりさせる」「余計な刺激を減らす」「棚にカーテンをつける」といった、教室環境に関する回答がほとんどでした。他には「ICTを使う」「ワークシートを使う」などが挙がりました。
しかし、教育のユニバーサルデザインを実現するために必要なのは、教室環境の整備だけではありません。授業そのものを工夫すること、つまり授業のユニバーサルデザインも不可欠ですし、他にも重要な要素があるのですが、そういった考え方はまだあまり浸透していないようです。
また、「○○スタンダード」と関連付け、教室環境や指導方法を統一するのがユニバーサルデザインであるというイメージも強いようです。
もちろんスタンダードを批判するつもりはありませんが、一つの方法に統一するという考え方では、むしろ本来のユニバーサルデザインからは遠ざかってしまうでしょう。なぜなら、教育のユニバーサルデザイン化は、より多様な学びを保障する場を目指すものであるからです。
さらなる誤解として「教育のユニバーサルデザイン=特別支援教育」といった捉え方が挙げられます。あるいは、個別支援だと捉えている先生もいるようです。障害のあるなしにかかわらず、通常学級の授業でより多くの子どもたちにとって分かりやすい、学びやすいデザインを目指すことこそが教育のユニバーサルデザインなのです。そしてそのためには、授業そのものを変えていくことが大切なのです。
授業を工夫することは、学びにつまずきのある子だけに焦点を当てることだという先入観を捨て、勉強のできる子も中間層の子も、同じように大切にできるよう授業をデザインしていくことが重要です。授業のユニバーサルデザインは、「簡単にする」「レベルを下げる」ことではないのです。