SDGs4.7とこれからの学び~アジアの教育を見つめながら(5)アジアにおける教育の質的変化

グローバル教育推進プロジェクト(GiFT)・グローバル教育プロデューサー 木村 大輔

前回、欧米よりもアジア諸国の方が資質・能力(コンピテンシー)育成の理念を先取りしていると述べた。では、コンピテンシーベースの教育の推進に向け、東アジア地域ではどのような取り組みが進んでいるのか。アジアソサエティが実施した「東アジアにおける21世紀型コンピテンシー」研究プロジェクトの一端を紹介したい。

21世紀型コンピテンシー(シンガポール教育省)

シンガポール国立教育学院のタン博士によると、過去20年にわたり、先を見越したさまざまな教育改革を行ってきたシンガポールは、「記憶や正しい答えが求められる試験は得意だが、不明瞭で複雑な問題の解決が苦手」という同国のイメージを短期で覆した。1997年には「考える学校、学ぶ国家(Thinking Schools, Learning Nation)」というビジョンを打ち出し、21世紀型コンピテンシーベースの教育にかじを切っている。

具体的には▽勉強から学習への転換▽教授法や学校行事の見直し▽ICT教育の総合計画の策定――などを実践し、多様な学習ニーズに応えるための環境を整備してきた。2010年に21世紀型コンピテンシーの枠組みを策定し、「社会情動スキル」「価値観」の養成に重点を置き、それに合わせた教員養成に取り組んでいる。「知識やスキルは価値観によって支えられなければいけない」という理念の下、自己管理、責任ある意思決定、自己認知、グローバルな認識や異文化スキルといったコンピテンシーを通して、「配慮ある市民」「自信のある人物」「自主学習者」「積極的な貢献者」を育成している(図)。このコンピテンシーベースの教育を実践するに当たり、「学習は競争ではない」と標準化テストの軽減を図った。

香港大学のカイミン名誉教授によると、香港のコンピテンシーベースの教育は「英国統治下でパブリックスクールをモデルにしたキリスト教系の学校」と「中国の理念を取り入れた国庫学校」が両立した時代にさかのぼる。

国庫学校では▽潤沢な課外学習▽田園の保護▽生徒による自治――という方針をとった。中国の伝統である全人教育を行ってきたため、元来コンピテンシーを重視した学校運営であったという。香港返還を経て教育コミッション(諮問会)は、それまでの経済成長、雇用可能性に向けた教育から「社会に必要な人材」「新たな世界に住む人々の質」に注目するようになり、00年には「自信に満ち、チーム精神を持ち、社会の繁栄と自由を求め、国家や世界の発展に貢献するような生涯学習者」の育成をうたった。

日本も新学習指導要領の全面実施が迫っている。SDGsのような社会全体の発展を狙った理念が、「世界のために」という意識を高め、「我慢する」自己抑制を促すのも教育の役割だ。日本からも学校、生徒、親、専門家らと一緒にたくさんの事例を発信していきたいと、わくわくしている。

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