IN-Child―包括的教育を必要とする子ども(1)今、教育にこそ科学の視点を

琉球大学教育学部教授 韓 昌完

「IN-Child」(インチャイルド)とは私の造語であり、これからの日本社会にこそ必要な新しい概念であると考えている。

数年前、ある小学校のケース会議にアドバイザーとして参加した際、情報共有の場でありながら、子どもの実態やニーズの共有が難しい現状にあることを初めて知った。そこでは(多くの教育現場や研究論文で頻繁に用いられてきたように)、会議で取り上げる子どもたちを「気になる子」「気がかりな子」と呼び、関係者の困りごとを共有するのが中心になっていた。

ここで少し私自身の話をすると、もともとは医学的な観点で障害者や高齢者のQOL(クオリティー・オブ・ライフ)に関する研究をしていたが、障害の専門家として特別支援教育に携わったのを契機に、教育学に関わるようになった。先のケース会議のように、医療現場でもさまざまな科や職種の人間が集まり、一人の患者に対する治療方法やリハビリテーションの内容、本人および家族の心理的ケアなどを検討するケースカンファレンスという場がある。では、教育現場で行われるケース会議とは何が違うのだろうか。

目的や言葉の定義が明確であるという点である。これは、参加者全員が世界的診断基準という科学的(客観的)な尺度を理解し、カンファレンス内の共通言語としているからだ。教育現場では、この共通言語となり得る道具がないため、「困りごとの共有」にとどまっていたのである。「気になる子」や「気がかりな子」という言葉には科学的な定義がなく、各個人の主観で用いるために、どうしても認識にずれが出てしまっていた。

そこでまず私は、教員の主観ではなく子どものニーズがどこにあるのかという観点で「Inclusive Needs Child―包括的教育を必要とする子ども」、略してIN-Childという言葉をつくった。学術的な定義は「発達の遅れ、知的な遅れまたはそれらによらない身体面情緒面のニーズ、家庭環境などを要因として、専門家を含めたチームによる包括的教育を必要とする子ども」である。つまり「何らかの教育的ニーズを持っている子ども」であり、教員にはその教育的ニーズを把握し適切に応えることが求められる。

そして、その子どものニーズを科学的に把握するために、「IN-Child Record」(ICR)という教育的診断ツールを開発するに至った。教員も医者と同じ専門職であるからには、教員のために作られた教員のための道具があってしかるべきであり、その開発はわれわれ研究者の使命であるとも思っている。


【プロフィール】
ハン・チャンワン 1969年、韓国春川市生まれ。日本へ留学し、東北大学大学院医学系研究科、同大学院経済学研究科の博士後期課程をそれぞれ修了。障害の専門家として特別支援教育に携わり、現職となる。2015年に15年間の調査研究を基に、教育現場で「気になる子」や「発達障害」という言葉のひとり歩きで広がる間違った認識を正すべく「IN-Childプロジェクト」を立ち上げた。
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