上智大学言語教育研究センター非常勤講師 山ノ内 麻美
皆さんは「CLIL」(クリル)をご存じだろうか。この連載ではCLILを知らない人、もしくは「聞いたことはあるが既存の教育法との違いが分からない」という人が授業で取り入れる方法や、CLILの持つ教育観に触れていく。
初回はCLILとは何か、その大まかなコンセプトや誕生の背景を紹介したい。
CLILは「Content and Language Integrated Learning」の略称で、日本では「内容言語統合型学習」とも呼ばれている。発祥の地である欧州では、すでに10年以上前から広く定着しており、日本でもここ数年でカリキュラムに取り入れる学校が増え始めている。
CLILの特徴は目標言語(主に英語)を用いて別の教科や社会的テーマなどを学ぶ点にあり、学習内容の理解に重きを置いている。つまり、be動詞や一般動詞などを学ぶことが目的なのではなく、数学や歴史、環境問題やアイデンティティーについて学ぶための「道具」として英語が位置付けられている。また、学習者の思考力や学習スキル、コミュニケーション能力、協同学習、異文化理解を重視した構成である点も特徴だ。CLILを実践する上では、これらの要素を有機的に統合することが求められる。
では、なぜこのような教育法が生まれたのだろうか。CLILの原理を理解するには、欧州が置かれた状況を理解する必要がある。多民族・多文化・多言語社会である欧州では、多種多様なバックグラウンドを持つ人々が交流しながら生活している。それだけに言語が担う役割は大きく、欧州評議会(Council of Europe)は1995年、母語に加え2カ国語の習得を提唱した。これをベースに、異文化を受け入れる価値観や問題解決力、協調・協働といった汎用(はんよう)能力を育む要素を盛り込んだのがCLILだ。
単なる言語指導にとどまらず、国境や文化の壁を超えて生きる「世界市民」の育成を目指しているところがCLILの真骨頂だ。新学習指導要領で「持続可能な社会の創り手」の育成を掲げるわが国においても、CLILを通して学べることは多い。
参考文献:『CLIL(内容言語統合型学習):上智大学外国語教育の新たなる挑戦 第1巻:原理と方法』(渡部良典・池田真・和泉伸一著、上智大学出版)