【給特法】労働基準法の基本ルール

埼玉大学准教授 髙橋 哲

労働条件の最低基準を定めた労基法

この臨時国会で、変形労働時間制の導入を柱とした給特法の改正案が審議される。教育法や教育行政を専門とする筆者は、これまでも給特法を巡る法的問題を検討してきた。学校の「働き方改革」が叫ばれ、現場でさまざまな施策が進められている中で、法的な側面から、給特法や教員の労働の問題について、3回に分けてアプローチしていきたい。

まず、第1回では給特法の議論の前に、労働基準法(以下、労基法)による労働時間管理の基本原則を確認したい。その上で、第2回でその特例を定める給特法の問題、さらに第3回で、給特法を維持したままで「1年単位変形労働時間制」を導入しようとする中教審「学校における働き方改革」答申(今年1月25日)の問題について論じる。

さて、労基法が全面的に適用除外される国家公務員と異なり、公立学校教員を含めた地方公務員には、一部を除いて、労基法が原則的に適用される。労基法の第1条1項は「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきもの」と定め、2項で「この法律で定める労働条件の基準は最低のもの」と明示するように、同法が労働条件の最低基準であることを宣言している。

それゆえ、労基法で定める基準に達しない労働契約は無効となり、この場合、「無効となった部分は、この法律で定める基準による」(13条)とされる。

周知のように、労基法32条は、1週間あたりの労働時間の上限を40時間とし、1日の労働時間の上限を8時間と定めている。また、労働時間が1日あたり6時間を超える場合、少なくとも45分間、8時間を超える場合1時間の休憩を与えなければならず(34条)、また、毎週少なくとも1日の休日を与えなければならない(35条)と規定している。使用者が、この法定労働時間を超えて労働者を働かせた場合(時間外労働)や休日に働かせた場合(休日労働)は、労基法違反として懲役または罰金に処せられる(119条1号)。

時間外・休日労働の原則と「限定4項目」の矛盾

一方、上限労働時間の例外として、時間外・休日労働をさせる場合の手続きを定めたのが労基法33条と36条である。このうち、時間外・休日労働をさせるための通常の手続きにあたるのが労基法36条であり、そこで使用者は、①労働者の過半数で組織する労働組合、あるいは、過半数代表との協定、(三六協定)を締結し、②行政官庁に届け出ることが義務付けられている。労働当事者の同意を条件とし、上記の要件を満たした場合にのみ、使用者は労働時間を延長し、休日に労働させても労基法違反を問われない(36条)。

もう一つの時間外・休日労働の方式が、労基法33条に定められた「臨時の必要がある場合」である。この方式には2つの発生要件が示されている。1つ目は「災害その他避けることのできない事由によって、臨時の必要がある場合」で、これは原則として事前に「行政官庁の許可」が必要とされる(33条1項)。もう1つは「公務のために臨時の必要がある場合」(33条3項)で、特定の公務員を対象に、三六協定によらず、時間外・休日労働を命じることができるとされている。

実は、給特法下での「限定4項目」の時間外勤務命令の根拠は、この条文に求められている。しかしながら、重要なことに、労基法上は教員を含めた「教育、研究又は調査の事業」(別表第一12号)は、この条文の対象外とされている。

これらの条文に基づいて労働者に時間外・休日労働をさせた場合、使用者には所定の割増賃金を支給する義務が課せられる(37条)。現行法令では、時間外労働には25%、休日労働には35%、さらに、時間外労働が月60時間を超える場合は、その超えた部分に50%の割増賃金を支払うことが義務付けられている。この割増賃金の支払い義務は、一方では、労働者の労働負担を経済的に補償する意味があり、他方では、上限を超えて働かせた使用者へのペナルティーという側面がある。いわば、時間外労働をさせた使用者に経済的負担を課すことで、時間外労働を抑制することにその目的がある。

さらに、労基法上のルール違反があった場合には、専門機関による法的是正措置が発動される。労働基準監督官には、使用者に対する臨検、書類提出要求、尋問の権限(101条)、さらには、司法警察官と同様に逮捕、差押、捜索、検証という強制捜査の権限が与えられている(102条)。

このように労働時間管理という観点から見るならば、労基法上のルールは、(1)時間外労働にあたり労働当事者の同意を条件とし、(2)当該労働時間への割増賃金を使用者に課し、さらに、(3)ルール違反への厳格な是正措置と罰則を備えることで、労働者の時間外労働を抑制しようとしている。給特法は、こうした労基法とは異なる特殊ルールを採用することで、これら(1)~(3)の時間外労働の抑制手段を教員から奪ってきたのである。

次回は、こうした給特法の特殊ルールについて検討する。


プロフィール

髙橋哲(たかはし・さとし) 埼玉大学教育学部准教授。 東北大学大学院教育学研究科修了・博士(教育学)。専門は教育法学。著書に『現代米国の教員団体と教育労働法制改革―公立学校教員の労働基本権と専門職性をめぐる相克―』(風間書房、2011年)、同「教職員の多忙化をめぐる法的問題―給特法の構造、解釈、運用の問題―」『法学セミナー』(773号、2019年)など。教育法、労働法の観点から給特法の法的問題を指摘する。

この連載の一覧