【IN-Child(3)】社会は多様性を力に変えられるか

琉球大学教育学部教授 韓 昌完

2000万年。これは、生物として遺伝的に安定する(つまり「完璧」になる)ために必要な進化の年数と言われている。われわれ人間「ホモ・サピエンス」は、その進化に20万年しかかけていない。今回は、生物の進化や「ニューロダイバーシティ」という観点から子どもの教育を考えたい。

ニューロダイバーシティ、と聞くと、なんだかとても難しい言葉のように感じるかもしれない。この言葉は、1990年代に生まれた新しい概念だ。「ニューロ」とはニューロン、すなわち神経を表し、「ダイバーシティ」は多様性を表している。つまり、人間は微妙に異なる脳神経システムによって多様性を構築していると考えられているのだ。

今、学校現場で「落ち着かない子」「こだわりの強い子」と呼ばれる子どものこういった特徴は、進化の中では欠かせないものだっただろう。20万年のうちのほとんどを、人間は狩猟と採集によって食物を獲得してきた。特に狩猟に必要とされるのは、多方面に気を配り即座に対応する「落ち着きのなさ」、つまり「多動性」と「衝動性」である。そう、今ADHDと言われているこれらの特徴は、私たち人間という種を存続させるために必要な力だったかもしれないのだ。

また、「こだわる」ことも、人間の存続には必要であったと考えられる。食料となる生物や植物の習性に関する研究、人間の生存に大きな影響を与えた天気の予想。

それには、音やにおい、光、風などの流れを把握し、敏感にキャッチする力が必要だったのである。

種の存続のために、人間自らが遺伝子レベルで環境に適応するよう役割を分担し、落ち着かなさやこだわりを持つ人間を一定数生み出してきたのかもしれない。

現代において、今や多くのIT企業やベンチャー企業がニューロダイバーシティという観点から人材を起用し、さらなる技術や文化、社会全体の発展に寄与している。

人間は種の存続だけでなく、文明の発達のためにもニューロダイバーシティを持った方が有利なのかもしれない。

人間はまだまだ進化の途中であり、遺伝的にもいろいろな進化の方向性を試しているからこそ、これほど多様な特徴を持った人々がいるのだろう。あちこち動き回っている人がいれば、じっとしている人もいる。社交的に人生を楽しむ人がいるなら、一人でとことん楽しむ人がいても当たり前である。そういった特徴を、数が多く主流となっている人たちが「自分とは違う」からといって差別してはいけないのではないか。

人間の進化は手探り状態で、もしかすると今の子どもたち、これから生まれる子どもたちが一つの方向性を教えてくれているのかもしれない。ニューロダイバーシティを進化の多様性としてみて、特徴を持った人材をいかに社会が力に変えるか、主流派の多数の意見で障害としてその能力を封じ込めるかは、社会の将来性の試金石になるのではないか。

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