【給特法】「上限ガイドライン」と「1年単位変形労働時間制」は教職員を救えるか?

埼玉大学准教授 髙橋 哲

上限ガイドラインと働き方改革推進法の違い

「学校における働き方改革」を審議していた中教審が、今年1月25日に最終答申を公表した。提言では、給特法体制を維持したままで、「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」(以下、ガイドライン)によって時間外勤務を抑制しながら、「1年単位変形労働時間制」(以下、1年単位変形制)を自治体の条例・規則に基づいて導入することが盛り込まれた。最終回では、この中教審が具体的な勤務時間管理の手法として掲げる、2つの提言の法的問題について検討する。

まず、ガイドラインは、19年4月から施行された「働き方改革推進法」による、改正労基法の時間外労働規制を踏襲するものである。

改正労基法では、三六協定に基づく時間外労働を月45時間、年間360時間までと設定する(労基法36条4項)。その上で、「臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合」には、①年間720時間以内の時間外労働を認め、②1カ月の時間外労働と休日労働の合計は100時間未満とし、③時間外労働と休日労働の合計が2~6カ月平均の全てにおいて、1月あたり80時間以内となることを定めている(労基法36条6項)。

ガイドラインはこれらの改正労基法の時間外勤務に関する上限時間を踏襲しているが、両者には大きな違いが存在する。

改正労基法では、時間外労働をさせるにあたり①三六協定による労働者の同意②当該労働時間への割増賃金の支給③「臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合」の上限時間を越えた際の罰則――が定められている。

ところが、ガイドラインは給特法を前提とすることから、これら時間外労働を抑制するための3つの装置を1つも持ち合わせていない。ゆえに、このガイドラインによって設定された上限時間は、時間外勤務を抑制するどころか、むしろ、上限まで「働かせて良い」基準として作用する恐れがある。

本来はハードルが高い1年単位変形制

では、もう1つの具体的な提案である1年単位変形制はどうか。1年単位変形制とは、1カ月を超える1年以内の期間内において、対象期間を、平均して1週間あたりの労働時間が40時間を超えないことを条件に、特定週での40時間を超える労働、および、特定日の8時間を超える労働を許容する仕組みである(労基法32条の4)。

これを実施するには、あらかじめ特定の労働日と当該労働日ごとの労働時間を設定した上で、労働者の過半数で組織する労働組合、あるいは、過半数代表との協定を締結し、行政官庁に届け出なければならない。

このため、1年単位変形制は業務の予測性と計画性が不可欠となる。それゆえ、1993年に1年単位変形制が導入された際、その「施行通達」では、「労働時間をあらかじめ定めておくことが困難な業務……については、1年単位の変形労働時間制を適用する余地はない」とされていたのである。

言うまでもなく学校における時間外勤務は、突発的な生徒指導や保護者対応などが多く、時間外労働を予測するのが困難な業務である。それゆえ、教員の仕事はそもそも1年単位変形制の対象となる業務ではない。

さらに、現行法上、この制度を公立学校教員に適用できるのかという問題がある。なぜならば、1年単位変形制は、地方公務員法58条3項により、教員を含め地方公務員からは適用除外されているからである。

総務省筋の解説書は、この適用除外の理由を「職員団体と当局は団体協約を締結することができない(法五五2)とされていることに対応したものである」と述べており、要件とされる労使協定締結はできないという建前をとってきたのである。

このため、もし1年単位変形制を採用するならば、労使協定締結が不可避となり、その場合、文科省がこれまで認めてこなかった三六協定締結も認めざるを得ないだろう。

また、仮に、協定締結の要件を除外して導入する場合には、もはやそれは労基法上の1年単位変形制の適用ではなく、新たな制度の創設となる。このため、給特法、地方公務員法の読み替えにとどまらず、労基法本体の改正も必要となるだろう。

文科省は、1年単位変形制を、給特法改正のみで各自治体の条例・規則にもとづいて導入しようとしているが、小手先だけの立法措置であり、労基法、地方公務員法違反となる可能性がある。1年単位変形制は、本来的には極めてハードルの高い提言であることが知られねばならない。

中教審答申は多くの政策提言を行っているが、具体的な勤務時間管理の手法をみる限り、それらはいずれも実効性のある施策であるとは言い難い。


プロフィール

髙橋哲(たかはし・さとし) 埼玉大学教育学部准教授。 東北大学大学院教育学研究科修了・博士(教育学)。専門は教育法学。著書に『現代米国の教員団体と教育労働法制改革―公立学校教員の労働基本権と専門職性をめぐる相克―』(風間書房、2011年)、同「教職員の多忙化をめぐる法的問題―給特法の構造、解釈、運用の問題―」『法学セミナー』(773号、2019年)など。教育法、労働法の観点から給特法の法的問題を指摘する。

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