【学習科学と先端技術の可能性(1)】先端技術の活用の歴史は繰り返される

聖心女子大学教授 益川 弘如
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2019年6月28日に「学校教育の情報化の推進に関する法律」が公布、施行された。これからも進展し続ける情報技術を、どのように教育に活用していくのが望ましいだろうか。この連載では、学習科学の研究領域の視点から考えていきたい。

ここ最近、EdTechを活用した教育改革に関する話題を耳にすることが多くなった。背景には、17年度から経産省が進めている「『未来の教室』とEdTech研究会」での実証事業や、文科省が18年度に策定した「柴山・学びの革新プラン」を基に今年6月に発表した「新時代の学びを支える先端技術活用推進方策」の最終まとめなどが関係している。Educational Technologyの略称であるEdTechは、最近登場した用語と受け止められがちだが、1984年にはEducational Technologyを「教育工学」と訳した上で日本教育工学会が設立されており、その歴史は古い。

ところで、経産省の取り組みや文科省の推進方策では「誰一人取り残すことのない、公正に個別最適化された学び」の実現が掲げられ、「個別最適化」がキーワードとして注目を集めました。ただ、個別最適化を実現するための先端技術活用は、新しいようで昔から研究が進められている枠組みでもある。

1950年代、米国の心理学者バラス・スキナーが、学習指導の個別化を主張してプログラム学習を提唱し、先端技術を駆使した「ティーチング・マシン」と呼ばれる機械の開発と実践が進められた。ティーチング・マシンは、問題を出題し学習者の解答が正解か誤答かを即座に判定、解答の正誤によって次に出題する問題を変えるというもの。これによって、一斉教授型授業からの脱却を図ろうとした。

コンピューターが発達した70年代には、より高度な制御が取り入れられた「CAI(Computer Assisted Instruction)」が開発され、一部の学校ではコンピューター教室の開設に合わせて導入された。集団授業においても、生徒一人一人の進度に合わせて問題を解くことができるようになった。

2000年代に入ると、インターネットの普及やパソコンの高性能化によって、こうした学習形態は「e-Learning」と呼ばれるようになり、企業研修などでも導入され始めた。そしてAI(人工知能)という用語が市民権を得た近年、日本では「AIドリル」などと呼ばれるようになり、学習可能な領域が広がってきている。

しかしこれらは、教育界全体において主流になることはなかった。資質・能力を高める学びとの相性が、必ずしも良いとは言えなかったためだ。


【プロフィール】

ますかわ・ひろゆき 聖心女子大学教授。認知科学者。専門は学習科学、教育工学、協調学習。著書に『学びのデザイン:学習科学 (教育工学選書II)」(編著、ミネルヴァ書房)、『21世紀型スキル:学びと評価の新たなかたち』(翻訳、北大路書房)、『アクティブラーニングの技法・授業デザイン』(共著、東信堂)など。文科省「全国的な学力調査に関する専門家会議」委員、経産省「『未来の教室』とEdTech研究会」委員。

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