【学習科学と先端技術の可能性(2)】EdTechを支える従来の学習理論

聖心女子大学教授 益川 弘如
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先端技術を活用した個別最適化は、1950年代の「ティーチング・マシン」に始まり、「CAI(Computer Assisted Instruction)」「e-Learning」「AIドリル」と名前を変え、技術の進化とともに発展してきた。しかし、システムには限界がある。これらを開発する際によりどころとなる「人はいかにして学ぶか」の考え方(学習理論)に限界があるからだ。

米国の心理学者バラス・スキナーのプログラム学習の考え方は「刺激と反応の繰り返し」を基盤としている。教授者が学習範囲を定義した上で学習者に刺激を与え、学習者の反応が正解であれば次の内容を提示するという行為を繰り返すことによって、知識を蓄積していくものである。

この「行動主義」とも呼ばれる旧来の学習理論には大きな問題点がある。学習者の正誤の反応によって次の問題が決定されるため、学習者の頭の中にどのような学習が起きているかを詳しく知る必要がない。

「AIドリル」を導入すれば、解き方など手続きの理解や事実の暗記が進む。教える側が定義した覚えるべき内容や問題は解けるようになるため、出題範囲のテストの点数は向上する。しかし、その手続きの意味まで理解し(深い学びの実現)、日常生活や他の学習場面で役立つ知識(生きて働く知識・技能)になっているかは保証できない。

一般的な教育の考え方(「素朴教育観」ともいう)では、まず基礎的な知識・技能を短時間で効率よく身に付けさせ、残りの時間でその知識を使った発展的な授業を行えば、新しい教育を実現できるとされている。

だが実際は、学習方法ごとに知識の習得は分断されてしまう。加えて、発展的な内容を学ぶ授業においても、この学習理論を基盤としている限り深い学びを引き起こすのは難しく、新しい領域の知識習得にとどまりがちだ。

学習科学の研究領域では、暗記に重きを置く基礎的な知識・技能のような内容であっても、思考力・判断力・表現力を発揮しながら、いわば主体的に考えながら学んだ方が、生きて働く知識・技能として定着すると分かっている。知識とは、基礎と応用に分かれているのではなく、連続的なものである。

筆者の指導教員であった学習科学者の三宅なほみ氏は、学習者に持たせたい知識について(1)学んだ場所から他の場所に持ち出せて(2)新しい場所でも安心して使える納得したものであって(3)必要に応じていつでもつくり直せるような柔軟性があるもの――と言っている。基礎か応用かという議論を超えて、このような知識を一体的に持たせるためにEdTechを活用するには、最新の学習理論に基づいた設計が必要である。

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