【学習科学と先端技術の可能性(3)】今後のEdTechを支える学習理論

聖心女子大学教授 益川 弘如
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前回、旧来の学習理論(行動主義)に基づいている限り、先端技術を活用した個別最適化には限界があると述べた。

新学習指導要領では、「主体的・対話的で深い学び」を実現する授業改善の推進によって、「生きて働く知識・技能の習得」「未知の状況にも対応できる思考力・判断力・表現力等の育成」「学びを人生や社会に生かそうとする学びに向かう力・人間性の涵養(かんよう)」の3つの柱、つまり資質・能力を一体的に育んでいく重要性をうたっている。この考え方は、学習科学の研究領域の根底にある最新の学習理論にも対応している。

現代の学習科学では、認知心理学や認知科学分野での「人はいかに学ぶか」の研究成果にのっとり、「知識は社会的に構成される」とする学習理論を基盤としている。この理論は「行動主義」に対して「社会的構成主義」とも呼ばれている。

もう少しかみ砕いて説明すると、「学習」とは受動的に知識を頭の中に染み込ませていくものではなく、学習者が目標を達成する(知りたい内容を得る)ために、その場の学習環境(情報の入手・比較、他者との対話など)を生かしながら、能動的に知識を組み上げるもの――という考え方である。

これらを踏まえると、先端技術の導入に当たっては「学ばせたい知識を効率よく詰め込む」方策ではなく、「学習者自身が理解を深めたくなる学習活動を保証する学習環境」をいかに構築するかの検討が重要になる。限定的な知識や手続きの記憶だけでなく、意味の理解や考え方自体も知りたくなる学習活動を可能にする環境である。

筆者は大学・大学院時代、仲間と共にReCoNote(Reflective Collaboration Note)という協調学習支援システムを開発した。当時(1997年)はまだウェブが普及し始めたばかりだったが、大学授業での利用を想定し、個々人が調べた内容を電子ノートにまとめ、相互リンク機能を持たせて学生同士で共有できるようにした。

実際に「問題解決論」という指導教員担当の授業で利用した結果、「人の問題解決の特徴は?」という最終課題では、複数の論文資料から得た事実の書き写しにとどまらず、事実を複雑に組み合わせ熟考の上、解決モデルを説明することができた。学習ログデータを分析してみると、自分の考えと他者のまとめや解釈をリンク付けしたり、他者のリンク情報も活用したりしながら、個々人の理解が深まっていく思考過程が確認できた。

ここでのEdTech活用は、提示された情報を順に学習する「行動主義」ではなく、自ら探索し、他者がつくり出した考えも取り入れながら深める「社会的構成主義」に基づく学習だったのだ。

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