【こども哲学(3)】高校で行うための工夫

NPO法人こども哲学・おとな哲学 アーダコーダ
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前回、私の勤務校である高等専門学校(高専)で取り組んでいる哲学対話について紹介した。読者の中には「40人規模のクラスで円になっての哲学対話ができるなんて本当だろうか」「高専という特殊な環境でのみ通用するのでは」と思われた方もいるかもしれない。そこで今回は、授業に哲学対話を取り入れる上での私の工夫を紹介したい。

実は、対話は40人全員で円になるのではなく、金魚鉢対話(フィッシュボウル)と呼ばれる方法を取り入れている。

まずクラスを2つのグループに分け、二重の円になるように座る。内側の円にいるグループが授業時間の前半に哲学対話をし、時間がきたら内側と外側の場所を入れ替え、後半のグループが話題を引き継ぎ対話するというものだ。

このとき、外側の20人に哲学対話を観察するためのワークシートを渡し、内側の円の対話の流れや要点、自分の気付きなどをまとめるように指示しておく。

この方法の第一の利点は、人数が半減することにより内側の円の対話への集中力が上がり、発言のハードルが下がる点である。それでも「外側の円にいる参加者は発言ができず退屈ではないか」と思う方はいるかもしれない。

だが実施後の学生の感想には「人の話を聴くのが好きなので、次は観察側でも意欲的にがんばりたい」「話す役割から離れ、聴くことに集中できたのでよかった」といったコメントが並んだ。おそらくこちらが思っている以上に、生徒や学生は身近な友人たちが普段の会話ではテーマにしないような話題について「どんなふうに考えているか」気にしているし、「何を話すのか」を聴くことそのものを楽しめるのだ。

もう一つの利点は、対話を聴き、それをまとめる円の外側の学生たちの取り組みについて、ワークシートにより可視化して評価できる点にある。

哲学対話を学校で取り入れることとその評価の問題は、これまでもさまざまな困難が指摘されてきた。発言回数や内容に踏み込んだ評価は、自由に考え、教員の求める「正解」を気にせず思ったことを話すという理念との相性が悪く、ほとんど行われていない。

それに対してこの方法は、対話を進める上で話す以上に重要かもしれない「聴くスキル」に着目する。それによって発言内容や回数には踏み込まずに、哲学対話への学生たちの関わりや成長を評価していけるだろう。

哲学対話に魅力を感じても、人数や評価の問題で実践に二の足を踏んでしまうのはもったいないと心から思う。ぜひさまざまな工夫で、学校に哲学する空間をつくり出せるよう踏み出していってほしい。

 (アーダコーダ理事、宇部工業高等専門学校講師 小川 泰治)

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