【学習科学と先端技術の可能性(10)】未来の教育を創る先端技術の活用

聖心女子大学教授 益川 弘如
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先端技術を活用した教育改革の推進には、最新の学習理論に基づき授業と評価を設計した上で、EdTechをいかに活用するかという視点を持つことが欠かせない。ただ難しいのは「このような使い方をすればいい授業になる」という決まった正解がない点だ。

学習者の学び方や考え方はさまざまで、一人一人積み上げてきた経験や知識が異なるため、その先の知識の積み上げ方も多様になる。そのような学習者が集まったクラスもまた、当然多様なのである。

私たちが取り組むべきは、日々の授業や評価をより良くしていくために、学習者の学びの多様さをできるだけ丁寧に捉え、その実態からより良い実践や支援を創りあげていくことだ。そして、さまざまな授業や評価の場面で、多様な学習者の学習・思考過程を捉えるには、先端技術が不可欠となる。

筆者が協力研究員として所属している東京大学「CoREF」では、学習者一人一人の多様性を生かしながら、対話を通して学びを深めていく授業づくりを支援している。

そこでのEdTech活用の取り組みには、大きく2つのタイプがある。

一つは、学習者の学びの様子を可視化し、授業後の振り返りと次の授業づくりに向けてのヒントを提供する活用だ。

現在は、対話データを記録し自動的にテキスト化して時系列に並べ、学習者によってどのような内容を話し合っているのか可視化・比較できるツールを開発している。

活発に言い合っているかどうかといった行動レベルの量的情報ではなく、どのような話し合いをしているのかといった学習者の具体的な思考過程を質的に把握・可視化することで、一人一人の学びを踏まえた授業改善につなげる。

もう一つは、授業記録や検討のやり取りを共有することで、最新の学習理論に基づいた授業や評価づくりのコミュニティーを広げる取り組みだ。そこでは、授業検討時の教師の多様な意見を見直すことができる。同時に教材、授業指導案、実践の授業がどうなったのか、学習者の記録や実践者の振り返りを関連付けた形で見ることもできる。

どちらの先端技術の導入も、テクノロジー側が自動的に「こうすればいい」と教授するのではなく、教師に学びが起きるような「考えるための情報」を提供する。

これからの先端技術を活用した教育改革においては、最新の学習理論に基づいて、現場サイドの学校と開発サイドの企業が対話しながら、より良いものを創り上げていく仕組みが必要となるだろう。

(おわり)

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