【学校安全のリデザイン(8)】心を育む「防犯モラルジレンマ」学習

日本こどもの安全教育総合研究所理事長 宮田 美恵子
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第6回で紹介した防犯体験学習は、通学路での声掛けによる連れ去りなどの際に危険離脱行動(危険から離れる、危険を伝える)を取りやすくする、いわば体に力を付ける学習であった。今回は心の面に着目した学習に触れる。

子供が略取・誘拐などの犯罪に巻き込まれるケースでは、甘言や脅しといった声掛けが契機となることがある。危険からの離脱行動は、危険を予測し、危険の対象を認知した上で実行されるものだが、そもそも声掛けに潜む危険に子供が気付くこと自体容易ではない。

こうした点に着目し、対応法を学習するために筆者が開発したのが「防犯モラルジレンマ学習」である。

子供は、日常生活の中で大人に声を掛けられたとき、道徳的規範から親切に応じるべきか、誘拐などの犯罪性も踏まえて断るべきか、判断に迷うことがある。

声掛け場面では、相手に失礼な態度を取るべきではないが被害に遭うかもしれない、というジレンマが生じるのを理解した上で、ふさわしい対応を取ることを目的としている。言い換えると、自分の安全を担保し、かつ声掛けの段階で失礼なく、相手の誘いや依頼に対応するコミュニケーション法を学ぶのである。

犯罪被害に遭わないことはもちろん、他者に道徳的な対応ができるかどうかも、子供にとっては重要である。はじめから他者の行為を善か悪のどちらかと決めつけて「声掛けは走って逃げる」「知らない人に道を聞かれたら無視する」といった従来型のステレオタイプな指導に陥らないでほしい。

「道徳性」と「防犯性」の間で葛藤する場面では、自分の安全を確保した上でその場でできる親切をする、相手に不快感を抱かせず断る、という「断わるコミュニケーション」方法を教えたい。安全教育のうち生活安全(事件・事故)は「人を見たらドロボーと思え」という人や社会づくりを目指しているわけではないし、それが安全教育の本質でもないからだ。

「防災モラルジレンマ学習」では映像教材を用い、登場人物に自らを投影しながら考えを深め、声掛け場面の対応を体験的に学習する。

単に知らない人を避ける、排除するという一方通行な教え込みではなく、声掛けに潜んでいるかもしれない危険を予測し、自分の安全を確保した上で、困っている人にはできることをする、相手の気持ちにも配慮する、という視点を取り入れた「心を育む防犯教育」である点に意義がある。

実際に、埼玉県や福井県、群馬県、東京都などの小学校の特別活動や道徳の授業で数多く実践されている。

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