【日米の学校(7)】「何か質問ある?」

東京学芸大学附属国際中等教育学校副校長 雨宮 真一
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娘が通う学校で授業参観があると聞いて、心待ちにしていた。いよいよ現地の公立小学校の授業が見られる。わくわくしながら校舎の扉を開けると、ホールの大きなテーブルに置かれた果物やドーナツに出迎えられ、思わず面食らった。

コーヒーを片手に教室へ向かう。日本なら保護者が教室の後ろにズラリと並び、わが子の様子を微笑ましく、時に苦々しく見守るはずだが、どの教室をのぞいても、そんな光景は見られない。保護者は教室の端に置かれているいすを持って、子供の脇に座るのだ。

周りに倣って娘の横に座ると、何だか自分が生徒のようだ。この日の授業は、小学3年生の算数。教師が解説を始めると、参観者たちは容赦のない声量で、わが子の理解度を確認する。

もう少し静かにできそうなものだが、ふと気が付いた。そうか、参加型なのかと。保護者は、子供の様子を確認するのではなく、教師と共に教えに来ているのだ。家庭でもこうやって教えてほしいという学校からのメッセージともとれる。

そういえば、娘が学期の初めに持ち帰ってきた用紙に「Homework Policy」(宿題の方針)とあった。その中には「教師の責任」「児童の責任」の他に「保護者の責任」という項目がある。

そこには「子供が家庭で学習できる環境を確保」し、「宿題について一緒に話し合い」、「内容を確認し、間違いを直す」とある。「子供が自分の宿題に責任を持つよう指導する」のだ。用紙の最後に署名して提出する。

家庭学習における親の責任は大きい。あるときには「2週間後に授業で学んだことを基にスピーチをします。準備は全て家でしてくること」とメールが来た。

「プロジェクト」という言葉を聞くと家族に緊張が走る。保護者の教育への協力の格差が、子供の成績に直結する仕組みだ。さて「授業で学んだこと」とは何か。私は娘を呼び出して言う。「ちょっとここに座って」。

ところで授業参観のとき、「スナックタイム」を目の当たりにした。午前10時半ごろ、教師の一声で子供たちはおやつバッグを取り出し、手も洗わずに生ニンジンやリンゴをむしゃむしゃ食べ始める。左手にセロリスティック、右手に鉛筆を持って計算問題に取り組む男児を見てぼうぜんとしていると、教師はいつの間にか参観中の保護者と立ち話をしている。

やがて、彼女は私の前に来て、ヨーグルトをほおばりながら満面の笑みでこう言った。「何か質問はある?」と。楽しい授業だった。質問もなかった。そのヨーグルトのことを除いては。

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