【日米の学校(8)】「子供たちを威圧するの?」

東京学芸大学附属国際中等教育学校副校長 雨宮 真一
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日本の教師は「世界で一番忙しい」と言われて久しい。私たちは授業や会議、部活動、家庭連絡と、さながら便利屋のようだ。外国の教師はどうなのか。

米国で暮らした3年間、私は仕事の合間を縫って幼稚園から高校、大学まで、現地の学校を見て回った。

米国は広い。教育制度は日本のようにどこにいても同じというわけではない。学齢が切り替わる日や修業年限も州によって異なるし、学習指導要領は、日本でいう都道府県や市町村が独自に定めているかのような感覚だ。ワシントンDCを中心とした首都圏の教育は、全米トップクラスの質を誇っている。

私が住んでいたメリーランド州モンゴメリー郡では、幼稚園の1年間と小中高(5・3・4制)の13年間が義務教育だった。

毎日の授業は日本のように教科書を中心に進めるのではなく、教師が郡の教員専用サイトでカリキュラムや指導案等を参考にしながら教材を選び、授業計画を立てる。

授業準備は基本的にチームで行われ、授業づくりのプロセスは非常に丁寧だ。

生活指導は、さまざまな人に役割が分担されている。カフェテリアでの昼食中は、担任ではなく指導担当のスタッフ数名が子供たちを見守る。授業中に騒ぐ子供には、教師が注意するが、それでも言うことを聞かない場合は校長室に報告された後、保護者が呼び出されたり、カウンセラーが指導に当たったりする。授業担当者が全てその場を収めようとするのではなく、チームで分業して指導する体制なのだ。

もちろん、保護者もそのチームの一員だ。年度当初に各家庭に配布される“Local Discipline Policy”(郡の生活指導方針)には、子供が学校で守るべきことと、守れなかった場合の指導方法が明記されている。

授業態度、カンニング、いじめなど、学校で起こり得るあらゆる事象が書かれ、指導は「教師による説諭」から「警察へ通報」まで9段階に分かれていた。保護者として承諾のサインをする際、何だか物騒な感じがしたが、こうして全て明文化するのは、移民が多く、個々の常識も多様な国ならではだと納得した。

娘の担任に「大声で子供を叱ることがあるか」と尋ねたことがある。彼女は驚いた顔をしてこう答えた。

「子供たちを威圧するの? 私は大声を出すことに教育的意味を見いださない」

全くその通りだ。しかし、これほど正論で返されたのは初めてだ。恥をかいたが聞いてよかった。この一言のおかげで、私は日本に戻ってからも、大声を出さずに指導できると実感できるようになった。

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