【シティズンシップ教育の可能性(6)】主権者を育てる教育

日本シティズンシップ教育学会
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教育という意図的な営みによって主権者を育てることは、民主主義社会にとって重要なテーマである。現に、多くの民主主義国家の公教育において、主権者である市民としての資質・能力の育成を目指す教科が設けられている。

日本においても、民主主義が普及し始めた戦後間もなく社会科が設けられ、紆余(うよ)曲折を経ながらも、主権者育成の中心的役割を担う教科として位置付けられてきた。

しかし、主権者教育を担う社会科という教科がありながら、シティズンシップ教育が注目されているのはなぜだろうか。それは「暗記の社会科」と言われるような知識の習得を重視した実態があり、そのような教育では、主権者を育成する役割を十分に果たし得ないという問題意識があったからではないだろうか。

内閣府「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」(平成30年度)より

主権者には、社会を主体的に担い、より良い社会の構築を目指して行動することが期待されている。現実の政治や社会を分析的に捉え、社会の問題に合理的で公正な判断をし、異なる意見を持つ他者と同等の権利の下での議論を通じて合意を形成していけるような資質・能力が求められる。

このような資質・能力を育成するためには、知識の習得に終始することなく、具体的な社会問題を取り上げ、問題解決を図っていくような学習活動が求められる。シティズンシップ教育では、そのような学習活動によって市民としての資質・能力を育成する目標論と方法論が示されている。

「地理」「歴史」「公民」という内容論から考えるのではなく、「主権者である市民としての資質・能力の育成」という明確な目標論に基づいて授業を組み立てる理念を見いだしたのであろう。また、シティズンシップ教育のように目標に寄って立つことで、主権者教育の幅が大きく広がる期待もできる。

しかし、社会問題を議論によって解決する能力が身に付いたとしても、その能力を発揮して政治に参加しようとする資質が育たなければ、主権者教育としては不十分である。

それを物語る資料として、世界7カ国の13~29歳までを対象とした調査結果がある(図)。日本の若者だけ、否定的な回答が5割を超えている。

シティズンシップ教育には、身近な地域社会の課題について考え、議論することを重視する考え方がある。自分たちの活動によって地域の課題が解決できたという実感を持たせることが、日本以外の国々の肯定的な回答につながっているのかもしれない。このデータからも、日本の課題が浮かび上がってくる。

【プロフィール】

吉村功太郎(よしむら・こうたろう)高校教諭などを経て、宮崎大学大学院教育学研究科教授。専門は社会科教育、シティズンシップ教育。

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