【日米の学校(9)】「教科書? 懐かしい」

東京学芸大学附属国際中等教育学校副校長 雨宮 真一
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「教科書? 懐かしい」

部屋をのぞくと、小学5年生の娘が宿題をやっている。米国の建国の歴史を学んでいる最中だ。200年と少しの短い歴史だから、日本の教科書では数行で終わる出来事も「なるほど、そんなこともあったのか」と感心させられるくらい詳しく学ぶ。

2週間後、娘はまだ同じ時代を勉強していた。しかし今度は、その時代の一市民の視点から短編小説を書いている。ストーリーの中に史実や当時の文化も盛り込まないといけないらしい。さらにその後、“Wax Museum Project”(蝋人形館プロジェクト)と題したスピーチ大会に、その時代の衣装をまとって参加するというから面白い。

米国の学校には教科書がないから、単元設計、授業展開はかなり自由だ。前述のプロジェクトも、社会、英語、美術など、複数教科を関連させながらダイナミックに展開している。

「教科書? 懐かしい。私が小さい頃は使っていた。今は郡の教師専用サイトで、各教科で学習すべきことはいつでも閲覧できるし、オンラインで教材を共有しているから困らない」と娘の担任は言った。

英語の授業は「読み」「書き」の2科目に分かれ、各50分の授業が毎日ある。「読み」は習熟度別で、与えられた課題図書を数人のグループで読み進めていく。

授業中、教師に呼ばれたグループは教室の隅で輪になって座り、その週の課題だった章について質問に答えたり、小声で議論したりする。内容の理解にとどまらず、分析と批評の「表現」が中心だ。ここでは、常に自分の意見が求められる。順番待ちの子供たちは黙々と読書を続けたり、語彙(ごい)テストの練習をしたりしている。

一方、一斉に本を読み進める授業では、物語のジャンルについて学ぶのが年間目標だ。毎日の宿題で課される「30分間読書」は、自分で本を選べ、読んだ本の中から月に1本エッセーを書く。

もう一つの「グループ読書」では、メンバーがそれぞれの役割を担当し、異なる観点から本を読む。つまり、彼らは常時4冊の本を並行して読み進めている。それぞれの活動で年間3冊程度の本を読むというから、少なく見積もっても年に12冊は授業で扱うことになる。これを教科書に見立てれば、辞書よりも厚い。

教科書があるのは便利だが、頼り過ぎては教師の自由な発想が妨げられる。私たちは教科書「を」教えるのではなく、教科書「で」教えることを忘れてはならない。

その方が授業準備も楽しい。教師が楽しんで準備した授業は、子供にとっても楽しいものだ。

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