【シティズンシップ教育の可能性(8)】人権教育に根ざしたシティズンシップ教育

日本シティズンシップ教育学会
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皆さんは、人権教育と聞いて何を想像するだろうか。「障害者や女性の人権を大切にしよう」「思いやりの心を持とう」といったことだろうか。

「心」を育むことはもちろん大切なことだが、人権教育の射程はもっと広く、社会を今よりも人権が大切にされた場にしていくため、人々に知識・スキル・態度を育むことを目指している。

すなわち、さまざまな人権課題を克服できていない社会の在り方を問い直し、多様な境遇の人が、その人らしく生きていくことを追求できる社会づくりに参加する市民を育むことを目標としているのである。

高槻市立第四中学校区の取り組み

したがって、人権教育の視点からシティズンシップ教育を捉えると、マイノリティーとされる多様な立場の人(障害者、女性、性的マイノリティー、被差別部落出身者、外国人、高齢者など)の「思い」を聞き取り、「思い」を重ね、「思い」に応答していく学習過程が不可欠となる。子供たちは、自分とは異なる境遇にある人々の「思い」を学び、多様性を尊重した社会の在り方を考え、地域社会の一員として行動していくのである。

その一例として、大阪府北部にある高槻市立第四中学校区の実践を取り上げたい。この校区では「家庭・地域と共に校区で子育て」を行おうとする取り組みを長く続けてきた。

校区全体の教育目標に、社会参画力の育成を掲げ、生活科や総合的な学習の時間の「いまとみらい」をはじめとした特徴的な授業実践を行っている。「いまとみらい」では、家庭・学校・地域・社会の「温度計を上げよう」、すなわち温かい場所にしていこうという取り組みが、地域住民の協力を得て行われている。

中学1年生の「ひとりぼっちのいないまちづくり」では、生徒たちが「小学生未満」「小学生」「お年寄り」「親・大人」「引きこもり」「障害者」「中学生」の7つのテーマに分かれ、それぞれ地域の人から話を聞き、出会った人の「思い」を知り、自分たちにできることを考え、行動に移していく。

「中学生」グループでは、孤独に苦しむ仲間を描くミニ動画を作成したり、居場所となるカフェを開いたりするなどの提案を行った。「小学生未満」グループでは、地域の子供食堂の開催に合わせて、小さな子供たちが楽しめるゲームやレクリエーションを企画した。

取り組みを通じて、子供たちは地域の課題を自分たち自身の課題と捉え、地域への帰属感を高めていった。同時に、地域にはさまざまな困難を抱えた人々がおり、そうした人たちを支える人や仕組みがあることを知った。

その結果、人と人とのつながりを大切にし、「まち」の一員として自分たちの「まち」をより良くしていこうとする社会参画力が高まることになった。

【プロフィール】

若槻健(わかつき・けん) 関西大学文学部教授。人権教育の観点からシティズンシップ教育の展開、学力格差を縮小する学校・授業づくりを研究。著書に『未来を切り拓く市民性教育』(関西大学出版部)、『学力格差に向き合う学校』(明石書店、共編著)など。

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