【寛容な教室のつくり方(8)】「内心の吐露」で相互理解を深める

弁護士・特定非営利活動法人ストップいじめ!ナビ理事 真下 麻里子
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本連載ではこれまで、「規範に従え」のニュアンスを持つ「すべき」という言葉を使って相手を説得しようとするなどの「力のコミュニケーション」は、できる限り減らしていった方がよいと述べてきました。理由は第3回で述べた通り、「力のコミュニケーション」は子どもの思考を停止させ、コミュニケーションを深める機会、適正な自己肯定感を養う機会を奪うからです。

だから私は、子どもたちに対し、たとえ腹が立ったとしても相手の尊厳を傷付けるような手段を選択「すべきでない」ではなく、選択「しないでほしい」と伝えていることを前回述べました。

「しないでほしい」という言葉は、「私は嫌だと思っている」という内心の吐露と「行動をやめてくれ」という依頼が組み合わさったものです。そして、依頼は相手の行動を求める行為ですから、納得を得るための説明が必要になります。この場合は「嫌だ」と思う理由の説明です。

つまり、「すべきでない」ではなく「しないでほしい」と伝えることによって、こちらの内心を吐露し、その理由を説明する機会を得るわけです。

私の場合、相手の尊厳を傷付ける手段を選択しないでほしいと思う理由を「人の尊厳を傷付けてしまったことを今でも後悔しており、そのような後悔を皆さんには決してしてほしくない」などと伝えることもあります。

また、「学校は『手段の選択』(第6回参照)を練習する場だと考えている。誤った選択をすることもあるかもしれないが、そのことを自覚できれば相手に謝り、反省して学べばよい。今からそうした練習を重ねれば、社会に出てからも必ず役に立つ。職業上、多くの大人のハラスメント事案を見ているが、そうした練習ができない大人はとても多い。皆さんにはそんな大人にだけはなってほしくない」などと話すこともあります。

「感情論」という言葉があるように、内心の吐露は理性的でなく説得力を欠くイメージがあります。しかし、何かを感じることの背景には、必ずその人の過去の経験があります。そうした経験も併せて相手に伝えれば、説得力が増すことも多いでしょう。

また、こちらが先に内心を吐露することで、相手も安心して吐露できます。さらには、互いがそう感じる理由や元となる経験を話すなどの過程を経て、相互理解が深まっていくのです。

他方、こちらが「すべき」と言って規範を振りかざした瞬間、相手には抵抗か服従かの二択しかなくなります。

持ちたい視点は「あなたと私の『したい』の調整」なのです。

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