【困った保護者とどう向き合うか(6)】クレーマーを懐に取り込む

日本大学文理学部教授 佐藤 晴雄
この連載の一覧

神奈川県のある公立小学校では、7月に校外学習として磯遊びを実施している。その際、保護者ボランティア数人に引率と見守りを依頼するのが通例であった。

暑い中での活動のため、児童には必ず水筒を持参し、水分を適宜補給するよう指導していた。ところが、1人の男児が水筒を持参し忘れたため、友達に水を分けてもらい、乾きをしのいでいた。この姿を保護者ボランティアの多くが見ていた。

後日、1人の保護者ボランティアが水筒を忘れた児童の母親と街で出会い、「磯遊びの時、おたくの〇〇君が水筒を忘れて大変だったのよ」と軽い気持ちで話した。磯遊びの日、その母親はパート勤務でボランティアとして関われずにいたので、わが子に負い目を感じた。

後日、その母親は学校にやって来て、校長に苦情を申し出た。保護者ボランティアに指摘されたことを伝え、「何で授業に教員でない人を同行させるのか。やめてほしい」と申し出た。校長は「安全確保の観点から保護者ボランティアの協力を依頼している」と丁寧に説明するが、なかなか納得を得られない。

その後、母親は何度も来校し、同じ主張を繰り返すので、その度に校長は説明を繰り返した。この1件は、7カ月後に当該男児が卒業したのを契機にようやく収束に至った。

ところで、筆者はその学校の研究発表会で講演を行った時、その母親からこう声を掛けられたことがある。「昨日、先生がコメントしたテレビ番組を見ました。世間にはそうして学校を困らせる親もいるんですね。驚きました」。

その前日、保護者問題を取り上げたテレビ番組で筆者のコメントが放映され、それを偶然、その母親が見ていたのだ。私は「学校を困らせているのはあなたでしょ」と言いたい気持ちを抑えて、「そうなんです」と言うにとどめた。この母親は、自身が学校を困らせていることを自覚していなかったのである。こうしたケースでは、苦情が長引く傾向にある。

その母親は、ボランティアとして参加できないもどかしさ・・・・・から、保護者ボランティアに敵意にも似た感情を抱いていたようである。その気持ちを察した校長は、当該男児に弟が在籍中であることから、母親に「都合がつく時でよいので、時々学校を手伝ってほしい」と話した。

すると、母親は学校支援に関わるようになり、その後は苦情などを申し出ることはなくなった。そのもどかしさ・・・・・こそ、氷山の海面下の氷塊だった。

この連載の一覧

あなたへのお薦め

 
特集