【困った保護者とどう向き合うか(8)】近隣住民とどう向き合うか

日本大学文理学部教授 佐藤 晴雄
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都内のある公立中学校の校門前には、学校の元保護者が経営する理髪店がある。その店主は、何かにつけて学校に苦情を申し出る。「校内放送の音がうるさい」「校庭の樹木の枯れ葉が舞い込んでくる」「帰宅途中の生徒がごみを投げ捨て、大声で話している」等々、次から次へと新たな苦情を寄せてくるのである。教員たちは、理髪店が定休の月曜日になると、店主の訪問があるんじゃないかとびくびくしていた。

あるとき、その学校で「職業人講話」に関する打ち合わせを行っていた。そこで、複数の職業を取り上げようという話になり、生徒の興味・関心の高い美容・理容などが話題になった。しかし、その場で全教員が「あの店主だけはないよね」という意見で一致した。

そこで、学校付近の関係店に依頼してみたが、どこも多忙や講話経験のなさを理由に引き受けてくれない。教員たちはいろいろと思案し、いったんは「理容・美容はやめよう」との意見も出された。しかし、一人の教員が「あの店主はよく学校に来ているから、頼んでみたらどうか」と切り出し、対案がないことから、その意見を受け入れることにした。

講話当日、かの店主は入念に準備をして30分の講話を流ちょうにこなし、生徒の質問にも要領良く答えて授業を終えた。関係した教員たちは、店主の意外な側面に驚きながらも、その講話を高く評価した。

それ以後、思わぬことに、その店主からの苦情は一切なくなった。校内放送の音量や枯れ葉などが従来と変わっていないにもかかわらず、である。

この店主はなぜ態度を変えたのか。理髪店は校門の前にあり、その存在が教職員全員に知られていた。しかし、店主は、学校が店の存在を無視して、迷惑をかけていることに無頓着だと思った。そうした態度に反発する気持ちから、苦情を寄せ続けていたのである。

つまり、学校が講話を依頼してきたことで、店主は学校が無視の態度を改めたと受け止め、苦情の申し出をやめたと考えられる。本事例では校門前の理髪店を無視していた点で、学校にも落ち度があった。校内放送や枯れ葉、生徒の言動などが、ある程度は近隣の迷惑になっていることくらい、認識していなければならないからである。

講話の依頼はともかく、日頃から教職員や生徒が店主にあいさつをしたり、行事の際に声を掛けたりして気遣う姿勢を見せていれば、状況は違っていたかもしれない。

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