【新時代のリスクマネジメント(7)】危機事象の重複

常葉大学教授 木宮 敬信
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前回は、新型コロナウイルス感染症のような新たな危機事象に対する「事前」の危機管理の重要性について触れました。今回は、複数の危機事象が重複した場合について、考えてみたいと思います。

個々の危機事象に対して危機管理マニュアルなどを作成していると、時にそれぞれが両立し難い事態となることがあります。例えば、できるだけ車通りの少ない裏道などを推奨する交通安全対策と、人通りが少ない道を避けることを推奨する防犯対策が、両立できないようなことが起こります。

実際、私自身が参加したある小学校での安全点検において、次のようなケースが見られました。学校の挙げた危険箇所の中に、交通量が非常に多く歩道のない道路を、児童が車とすれすれに歩いている場所がありました。その道路のすぐ裏に並行する生活道路があったので、私は「なぜ、この道を通学路にしないんですか?」と尋ねました。すると、以前はこの生活道路が通学路だったのだけれども、不審者情報があったために、交通量の多い道路に変更したとのことでした。

この判断の是非は非常に難しいですが、不審者遭遇のリスクが減少した一方で、交通事故のリスクが高まったことは間違いありません。このように、個別の危機管理だけを考えた結果、全体の安全性が見えにくくなってしまうことは往々にしてあります。学校現場で危機管理マニュアルを作成する際、大いに頭を悩ませるポイントではないでしょうか。

今回の新型コロナウイルス感染症についても、感染症対策と防災の関連で悩ましい事象が起こっています。4月中旬、米国南部で30人以上が亡くなる大きなハリケーン災害が発生しました。発生時は新型コロナウイルス感染拡大に伴う外出禁止令が出ていましたが、避難を優先させるために、一時的に外出禁止令が解除されることとなりました。

住宅を失った人たちの避難場所での感染症対策をどうするのか、停電が続く中での自粛生活をどう維持するのかなど、行政は大変難しい判断を迫られました。日本でも3月に北海道の標茶町で水害による避難指示が出た際、避難所での感染症対策について頭を悩ます事態が起こりました。

災害時に学校が避難所となるケースはよくあります。避難所の管理や運営は学校の責任範囲とは言えませんが、教育活動との両立や児童生徒が避難民となることなどを考えれば、学校と地域が一体となって考えていかねばならない問題だと言えるでしょう。この点については、次回詳しく考えてみたいと思います。

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