株式会社博報堂H-CAMP企画推進リーダー 大木 浩士
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学校の授業で行われている話し合いは、そのほとんどが「正解のある話し合い」ではないでしょうか。
今まで会った、多くの中高生が言います。「正解のある話し合いは、つまらない」と。答え合わせを行い、正解が見つかれば、それで終わり。後は、つらい沈黙の時間が続くだけだそうです。
正解のある話し合いも、確かに必要だとは思います。しかし、これからの教育を考えた時に、本当に必要なのは「正解がない話し合い」です。
実社会には、正解のある課題など、ほとんどありません。新型コロナウイルス対策をどのように進めたらよいのか。大きな自然災害から、どう復興していくのか。高齢化と過疎化が進む地域をどうするのか。正解はありません。
社会に出た時、本当に求められるのは、正解を導く力ではありません。大切なのは、正解のない課題に勇気を持って向き合い、多様な視点と知見とを対話を通じて持ち寄り、発想力を駆使し、解決の最善策を生み出す力です。
異なる価値観を認め合うこと。他者の意見を受け止め、新たな発想を持つこと。素朴な疑問に気付き、勇気を出して発言をすること。異なる意見をかけ合わせたり、折衷案を見つけたりすること。
正解のない課題が増えていく未来の社会、求められるのは、そのような力を持った人材です。そして、質の高い話し合いを作り出す、場づくりの経験が求められるのです。
「教科書や学習指導要領に書かれているから、生徒たちにとりあえず話し合いをさせておくか」
このような発想は、“人づくり”というテーマから逃げています。話し合い型の授業を通して、どんな人材を育てたいのか。その人たちが社会に出た時、どんな未来であってほしいのか。これらをヴィジョンとして思い描くことができるかどうか。それがこれからの教育の質を大きく変えていきます。
「何のために行うのか」を、自分自身に問うてください。そして、学校の中で、先生同士で話し合いの場を持ってください。
先生同士で話し合いを行うことは、とても大切です。生徒たちに質の高い話し合いを経験させるには、先生の中に良質な話し合いの体験情報が必要となるからです。
実験をする感覚で、試行錯誤を重ねてみてください。
話し合いをどのように進めればよいのか。そのヒントは、私の著書『博報堂流・対話型授業のつくり方』(東洋館出版社)に散りばめられているので、参考にしていただけると嬉しいです。
私の連載は、今回が最終回です。教育の現場が分かっていない企業人からの意見。失礼な内容もあったと思いますが、参考になるところが一つでも二つでもあれば幸いです。
ありがとうございました。
(おわり)