【世界の学校、世界の潮流(8)】経済発展の中で教育格差の課題を抱えるタイ

Demo代表・教育ファシリテーター 武田 緑
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経済発展に伴い先進国と同レベルの富裕層が存在すると同時に、旧スラム地区があり、少数民族の人々がおり、さらに周辺国ミャンマーやカンボジアからの移民労働者などの貧困層が暮らしている――。それが今のタイの姿です。

「学校に通う」ことは基本的に保障される社会になりましたが、その教育内容はまだまだ一斉画一授業の詰め込み型が多いというのがタイの現状です。そんな中で、留学経験を持つ富裕層や、層を厚くしてきた中間層の親たちは、体験的な学びやアクティブ・ラーニング、個性を尊重する「より良い教育」を求めて私立の幼稚園や学校へ子どもたちを送っています。

中でも、モンテッソーリやシュタイナー教育などのオルタナティブ教育は人気があります。以前私たちが訪問した学校も、仏教をベースにした独自の教育理念とカリキュラムを持つオルタナティブスクールとして有名なところでした。学校に着いて車を降りると、駐車場にはベンツやフェラーリがずらり。「おお…」と驚いて校内に入ると、今度はリゾートのようなすてきな空間が広がっていました。

先生方は物静かに、落ち着いた雰囲気で子どもたちと接していました。生活に溶け込んだ形で仏教の教えを自然に感じ取れる環境をつくること、「二つの外面(身体とコミュニケーション)」と「二つの内面(心と知恵)」の育ちを目指した教科横断型のテーマ探究学習を行っていることが特徴とのことでした。

一方で、かつてスラムと呼ばれた貧困地域も訪れました。少しずつ改善が進み、今は「密集地域」と呼ばれているそうです。この地域では、進学率や就業割合が昔と比べてかなり高くなったものの、訪問した保育園の園長先生によれば、中には麻薬の売買に手を染めてしまう卒園生や保護者もいるとのことでした。

裕福な家庭の子どもたちは、たとえ住んでいるのがこの地域の近くだったとしても、違う小学校を選んで通うため、社会階層の異なる子どもたちが学校で出会うことはなく、交ざり合う機会は少ないのだと言います。先述したオルタナティブスクールの子どもたちと、この地域の子どもたち、その両方と出会うと「同じ国の中で、世界が分かれてしまっている。これでいいのだろうか」と、悶々とした思いが湧いてきます。

しかし、日本の状況も実はさほど変わらないのかもしれません。生まれた地域や階層による格差が存在する中で、「教育に選択肢を」という流れが加速しています。今後、さらなる分断が進むことは想像に難くありません。私たちは、「教育を通してどんな社会をつくりたいのだろうか」と、自問自答を続けていく必要があるのだと思います。

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