【社会をつくり出す武器としての言語活動(7)】手持ちの武器としての言葉を育む実践

自由学園男子部教諭 高野 慎太郎
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生徒も私も、日々の言語活動を授業で共有する癖がついている。例えば、最近接した本や映画の解釈について、授業で共有するのである。

2019年に、私がU2というバンドの日本公演を見た時も、授業で報告することとなった。U2の歌詞を授業で扱ったことがあり、生徒も関心を持っていたのである。ライブ会場では「撮影自由」とアナウンスがあったため、私が撮影した映像を見せながら話すことができた。

初めに、「BAD」という曲を上映した。「混乱、別れ、非難、孤独、寂しさを隠す必要はない」という内容のこの曲の終盤で、U2のボーカリスト(ボノ)は観客にこう呼び掛ける。

「このスタジアムを大聖堂に、スマホの明かりをキャンドルに変えて、偉大なピース・メーカーに思いをはせよう」

「中村哲さんのことだ」と生徒が気付いた。ライブの前日、アフガニスタンで戦災復興に尽力していた医師の中村哲さんが亡くなっていた。授業では中村さんの著作を読んだことがあった。

ボノは中村さんの名前を呼んで、サイモン&ガーファンクルの「Boxer」という曲の一節を歌い始めた。「冬支度をしながら、一人のボクサーが故郷を思い、あり得たかもしれない別の人生に思いをはせる」という内容の一節である。

私は「通常、U2のライブでこの曲が歌われることはない」と説明した上で、「Boxer」の歌詞を配布した。そして、「ボノが引用した箇所とその他の部分はどう違うだろうか?」と生徒に問い掛けた。「厳しい冬を経験して、初めて主人公が迷っている」と生徒。

私は「本歌取り」と板書した。別の和歌の表現を借りることによって表現の文脈を複層化する和歌の技法である。実は先週まで、「本歌取り」を授業で扱っていた。

「なるほど~」という声とともに「『Boxer』の引用は、亡くなるときの中村さんの心象風景なのではないか」「『Boxer』における『故郷』とは『日本』であり、『別の人生』とは『日本で普通に医師をしていた人生』を意味するのではないか」などの意見が出された。

授業で学んだ言葉を用いて目の前の「謎」を解釈することができると、その言葉を腹に落とすことができる。授業を通して育てた「手持ちの言葉」は、「言語活動」の強力な武器になるのだ。


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