【 学テの再検証とCBT化の行方(2)】全国学力テストは、日本の学力を向上させるのか

福岡教育大学准教授 川口俊明
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全国学力テストが開始された理由の一つに、21世紀初頭の学力低下論争があります。当時、いわゆる「ゆとり教育」の実施に伴い、日本の学力が低下しているのではないかという懸念が世間を騒がせていました。折しも2000年から03年にかけて国際学力調査PISAの日本の順位が急落したこともあって、学力低下は決定的な事実として受け止められるようになったのです。

そんな中、当時の中山成彬文科相が、競争を通して学力を向上させたいと主張したことが、現在の全国学力テストのきっかけとなりました。テストによる点数競争を好ましくないと思う人も多いでしょうが、世間には、数字を競い合うことが全体の質の向上につながると信じる人も少なくないのです。

では、テスト結果を公表して競争を促せば、日本の学力は向上するのでしょうか。実は、テスト結果を利用して学校や教師に発破をかけることの効果(波及効果とも呼ばれます)を調べる研究は存在します。ただ、この手の研究を全国学力テストで行うには、一つ深刻な課題があります。

それは、学力が上がったかどうかをどうやって判断するのかという問題です。全国学力テストの点数を比べればいいと思うかもしれませんが、ある年の得点が70点、次の年の得点が80点だったとき、学力が上がったと考えてよいでしょうか。答えは「ノー」です。学力が上がったのではなく、テストが易しかっただけかもしれないからです。

先の例から分かるように、テストの点数から学力が「上がった」「下がった」を判断するのは、それほど簡単ではありません。この問題を解決するため、教育研究では項目反応理論(Item Response Theory:IRT)というテスト理論が導入されています。

困ったことに、現在の全国学力テストはIRTを利用していません。つまり、学力が上がったかどうかを判断する方法が実装されていないのです。これでは、毎年テストをして競争をあおっても、肝心の学力が向上したかどうか分かりません。

テストを通した競争によって学力を高めたいのであれば、その成果を測る方法も考えておくべきでした。現在の全国学力テストは、競争によって学力を高めたいと考える人たちの思惑とは裏腹に、成果を測る方法もなく、ただ教員や子供たちに負荷をかけているだけなのです。滑稽と言えば滑稽ですが、そんなテストに毎年数十億円の税金が投入されてきたことを思うと、暗たんたる気分にならざるを得ません。


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