【学テの再検証とCBT化の行方(3)】教育実態や政策の効果は分かるのか

福岡教育大学准教授 川口俊明
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全国学力テストを使うことで、日本の教育実態や政策の効果を知ることを望む人は少なくありません。かくいう私もその一人です。ただ、現在の全国学力テストでは、教育の実態を知ることも、政策の効果を測ることも簡単ではありません。

なぜなら学力テストの結果に影響するのは、政策や学校・教員の力だけではないからです。教員は誰でも経験的に知っていると思いますが、保護者の学歴・年収・職業(これを教育研究では、Socio―Economic Status:SESと呼びます)が、子供の学力に大きな影響を与えます。さらに、子供の元々持って生まれた素質もあります。

テストで測れる能力には個人差があるので、たとえSESが低くても、あるいはあまり教員の指導が上手でなくても、テストの成績が高い子供はいます。そのため、教育実態や政策の効果を把握するにはテストの点数を調べるだけでは不十分で、SESや素質といった要素を考慮する必要があるのです。これまでの教育研究では、SESの影響を除去するためにSESがよく似た子供同士を比べるとか、素質の影響を除去するために同じ子供の変化を追跡するといった手法が利用されてきました。

残念なことに、現在の全国学力テストは、小学6年生と中学3年生の一時点の成績を調べているだけです。2013年と17年に抽出調査で実施された保護者に対する調査を除けば、SESも調べていません。これでは、ある子供や学校の成績が高いことが分かっても、それが指導や政策の効果なのか、それとも元々SESが高かったり素質に恵まれていたりしただけなのか分かりません。

全国学力テストを利用して政策の効果を推定した研究は幾つかありますが、その多くは全国学力テストを単体で分析するのではなく、自治体が独自に実施していた前年度の学力テストの結果など、他のデータを接続する形で行われています。全国学力テスト単体で分かることはそれほど多くないのです。

それにしても、毎年度数十億円の予算をかけてテストを実施しながら、それ単独では日本の教育の現状や政策の効果が分からないというのは困りものです。EBPM(Evidence―Based Policy Making:証拠に基づく政策立案)が重要だと主張する人は少なくありませんが、本気でEBPMが大事だというのであれば、まずは全国学力テストの実施方法を一から考え直す必要があるでしょう。


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