【学テの再検証とCBT化の行方(9)】CBT化にはどのような課題があるのか

福岡教育大学准教授 川口俊明
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前回は、全国学力テストのCBT化の可能性を語りました。もっともこれは、うまく設計すれば可能になるという「夢」の話です。現実には、CBTの利点を享受するためのハードルは低くありません。

まず問題になるのは、肝心要のコンピューターの整備状況です。現在「GIGAスクール構想」の下、1人1台のコンピューター配備が進んでいますが、コンピューターだけがあってもCBTはできません。テストにインターネットを利用するのであれば、全員が同時にアクセスできる通信環境を確保しなければなりませんし、大人数による同時アクセスを処理できるサーバーやアプリケーションも必要です。こうした環境を準備するだけでも大変ですが、それを維持することにもかなりの予算と人手が必要になります。

セキュリティーと利便性の兼ね合いをどう考えるのかも課題です。リスクを恐れるあまり、教育関係者のインターネットへのアクセスを極端に制限している自治体もあると聞きますが、これでは自宅からテストを受験するといった柔軟な運用ができません。

何より難しいのは、CBTではテストを設計・運用する側にも高度な知識が必要になるという点です。通信環境の整備やサーバーへの同時アクセスによる負荷を制御する情報工学の知識はもちろん、IRTをはじめとするテスト理論にも精通する必要があります。本連載で触れてきたように、あいにく現在の日本の教育とIRTの相性は悪いので、教育現場にIRTの専門家はほとんどいないように思います。外部委託すればいいと考える人もいるかもしれませんが、委託するにも仕様書は書かなければいけません。それに委託業者からの提案を理解するためにも、情報工学やテスト理論の知識から無縁というわけにはいかないでしょう。

要するに、全国学力テストのCBT化は、教育関係者に大幅な知識のブラッシュアップを必要とします。中でもCBT化を推進する教育行政の責任は重大ですが、本連載の第7回で触れたように、2年から3年で部署を異動する日本的な組織運営のままでは、専門知識を身に付けた人材を育成・雇用するのは容易ではないでしょう。その意味で、全国学力テストのCBT化は、日本の雇用慣行すら見直すことを要求する一大プロジェクトと言っても過言ではありません。「現在の学力テストの調査問題をコンピューター上で表示すれば、それでCBTになる」というレベルの心構えで取り組めば、まず間違いなく全国学力テストの失敗を繰り返すことになるでしょう。


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