【学びの危機(1)】「特別な時代」に「特別な努力」をかけて「学ぶ」こと

津田塾大学准教授 柴田 邦臣
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2020年12月25日のクリスマス、首都圏の大半の特別支援学校では、2学期の終業式が行われた。サンタクロースが来たからか、待望の冬休みだからか、子どもたちはいつにも増して軽やかな足取りで登校している。

もちろん、節目に学校へ向かう子供はいつもそうだ。しかし、その高揚感が初めて、静かに、そして明確に裏切られたのが、2020年4月の始業式であった。

タブレット端末で自宅学習をする障害児

その日は、特別な始業式だった。大人が新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の蔓延に震えるはるか 1カ月も前から、子どもたちの学びは「緊急事態」に突入していたからだ。待ちに待った学校への登校、新しい学年、担任、クラスメイトとの出会いに、高揚しない子どもはいない。しかし、帰宅して声を踊らせながら報告している子どもたちの横で、保護者のスマホが鳴った。「緊急事態宣言発令に伴い、明日7日からの登校日はすべてキャンセルになりました。今後の家庭学習の方針は未定です」との連絡だった。

二度目の緊急事態宣言が発出された今、私たちはあの時の児童・生徒・学生たちの気持ちをきちんと理解しようとしていたのか。3~4日ほどたって郵送されてきた「修了したはずの旧学年のドリルのコピー」を前にした子どもたちの表情を。突然のオンライン化に慌てる画面の向こうの教師を無言で見つめる、その眼差しの奥の気持ちを…。

子どもたちはとても柔軟なので、表面的にはあっさりと適応したかのように見える。しかしそれは、「子どもたちの我慢」に依存した、最悪の解決法だった。あの時、私たちはパニックで十分な対応ができなかったことを、きちんと正視しなければならない。その上で、このCOVID-19危機の「特別」な時代に、学び続けなければならない彼ら彼女らに寄り添えているのか、私たちは問わなければならない。子どもの学びが社会の未来なのであれば、もう絶対に、あんなことを繰り返すわけにはいかないのではないか。

この社会には、障害や家庭の事情などさまざまな理由で、学ぶことが困難な子どもたちがたくさんいる。私たちは、COVID-19による社会危機が「特別な努力」をかけて学ぶ子どもたちに強いる過酷な状況を、学びの危機=Learning Crisisと呼んでいる。この「危機」は気が付かないうちに、最も大切なものを子どもたちから、そして私たちから奪おうとしているのではないか。本連載では、COVID-19下の教育の1年を振り返りながら、その実像に迫りたい。

【プロフィール】

柴田 邦臣(しばた・くにおみ) 津田塾大学学芸学部国際関係学部准教授・インクルーシブ教育支援室ディレクター。COVID-19危機が子どもに及ぼす「学びの危機」が、短期的な学習意欲の低下や学力格差拡大はもちろん、時代を画する長期的な「学問・科学の危機」であることを提起。「Learning Crisis研究会」会長、「学びの危機プロジェクト」(まなキキ)代表として「学ぶために特別な努力が必要な時代」の研究と受け皿づくりに奔走する。専門は社会学・福祉情報研究・インクルーシブ学習論。著書に『〈情弱〉の社会学:ポスト・ビッグデータ時代の生の技法』(青土社)ほか。


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