【生きる教育(6)】小4「10歳のハローワーク」

大阪市立生野南小学校主務教諭 小野 太恵子
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10歳。思春期の入り口に立ち、愛着に課題のある子供たちの心が揺れ始める時期だ。日常生活のふとした瞬間に、記憶の片隅にある母親のことを語り出したり、なぜ自分はここ(施設)にいるのかと問い掛けてきたりする。この時期の心の揺れの放置が他傷・自傷という形で表れていたのが、かつての「荒れ」であった。空白の過去や美化した親像は自己否定につながり、健全なアイデンティティーの構築を阻害する。子供たちが一日のほとんどを過ごす学校という場にこそ、不安定なライフストーリーを正しく受け止める機能が必要だと考えた。

友達との一対一の面接

4年生ではキャリア教育を交えながら、まず「未来」に向かう。本や適職診断などから職業に関する知識を増やす。興味がある仕事について調べ、履歴書づくりや面接を設定する。

履歴書には家族構成や将来の夢、自己アピールなどの他に、今困っていることや誰にも話していなかったことなどを書く欄も設けてある。それをもとに友達と一対一の面接を行い、時間が来たら相手を変えて何度も自己を語る。友達を鏡に自己を照らし返すこの時間を、子供たちは一分一秒を惜しむように過ごす。

さらに、希望の職業に就くために必要な力をオークション形式で全44項目から競り落とす。「自分を好きになれる力」に10コインの全てを使う児童もいるなど、ゲームを通し、今の自分と向き合うまなざしは、皆真剣である。

最後は、楽しい活動の中で向き合ってきた「未来」と「今」に、「過去」を紡いでいく。希望に輝く未来年表へ、安全に「過去」を付け足し、自分史を完成できるよう指導者は準備をする。空白の過去が埋まらないケースや、伝えるべきではない事実もあるからだ。

学校はあくまで真実を伝えるのではなく、橋渡しを担う場である。子供にとって「大人になったら話すね」という約束も立派な答えであり、それで霧のかかった視界が晴れることもある。ふとこぼすつぶやき(SOS)をキャッチし、連携の中でゴールを見定めた道標を示してやることが、子供たちの安心につながる。子供たちは生い立ちや親を変えたいのではなく、分からないことだらけの空中散歩から着地し、地上を歩きたいのだ。

10歳の今、伝えられない事実がある。だから今ここにいる。その「今」を一緒に受け止め、「過去」に寄り添い、「未来」を真剣に考えてくれる人にたくさん出会うことができる。それが、本校のライフストーリーワークである。

10歳の今、自分の意志で、未来への一歩を踏み出してほしい。


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