【学びの危機(6)】「レガシーエディケーション」の困難

津田塾大学准教授 柴田 邦臣
この連載の一覧

「だって…学校ではひなたぼっこして、おにぎり作っているだけなんだもん…」

休校期間と学校運営の変化に関するクロス集計表(p=0.031)

Learning Crisis研究会は、新型コロナウイルス感染症(COVID―19)下の障害児の「学びの危機」に対応するべく、「まなキキ」という支援プログラムを実施している。その一つ「まなキキ英語サロン」にオンラインで通うお子さんの一言に、はっとさせられた。

小学5年生のこの子には、英語のサロンに積極的に参加できるほどの高い知性が備わっている。しかし、コミュニケーションや集団生活などにおける特性があって、通常の学級では学べない。片や特別支援学級の活動内容は、この子にとって児戯の範囲でしかない。配慮を求めると学ぶことができず、学びを求めると配慮が受けられない。数年しかない貴重な学齢期が、制度の狭間で浪費されていく。

2020年12月にまとめられた「新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議」報告案では「子供たち一人一人の教育的ニーズを踏まえた適切な教育を提供する」という高い理想がうたわれていた。しかし、「多様な学び」という理想に対して、教育の現実はもはや制度疲労そのものと呼べるほど困難を呈しつつある。「疲労」しているのは、子どもたちの「学ぶ意欲」だと言えるかもしれないのだ。

Learning Crisis研究会の全国調査は、COVID―19下で揺れる特別支援学校の様子を如実に浮かび上がらせたが、一番印象的だったのが子どもたちの様子だった。「例年よりも問題行動が多い。行事・部活等が中止になり、目標を見失っているように感じる」「積極性や自主性が抑えられているよう」など、子どもたちの意欲や自主性への影響を訴える報告が数多く見られた。

COVI―19によって引き起こされたLearning Crisisが、なぜ深まるのか。第4回・5回と、その学びの危機の深まりが「形骸化」「格差拡大」により生み出される点を整理してきた。最後に浮上した、最も深刻な要因が学校制度と子ども自身の「疲労」だ。さらに留意しなければならないのは、子どもたちの「疲労」は、右往左往しながら亀裂を深めている学校の「制度疲労」そのものが生んでいる点である。

しかし、私たちは間違えてはならない。表は休校の長さと学校運営の変化をクロス集計したものだが、感染拡大が長期化した学校ほど、変化を強いられている傾向が見て取れる。問題になっているのは、これまでの伝統的な教育制度の方なのだ。私たちは「制度疲労」を起こしつつあるそれを「レガシーエディケーション」と呼んでいる。

「特別な努力」が必要な子どもたちの「努力の甲斐」に、今の学校は応えられていない。「レガシーエディケーション」の困難が、障害のある子どもたちの「意欲の疲労骨折」にならないための努力を、惜しんではならない。

「第3回学びの危機カンファレンス」


この連載の一覧

あなたへのお薦め

 
特集