【生きる教育(9)】中1「思春期のアタッチメントとトラウマ」

大阪市立生野南小学校主務教諭 小野 太恵子
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疾風怒濤(どとう)の思春期。心身の機能や性的な発育が目覚ましいこの時期、理性では抑えきれない心の揺れを、「脳機能」という視点で科学的に捉えていく。

脳機能の視点で科学的に捉えていく

脳は思春期において大きく変化を遂げる。大脳では至る所でシナプスが刈り込まれ、機能に磨きがかかる。下垂体では、成長ホルモンや性ホルモンの分泌が活性化し、へんとう体では攻撃性や危険を好む場所が大人以上に発達する。特に心に傷がある場合は、感情の暴走が顕著だ。このような科学的知識が、大人への階段を健全に上っていく子供たちの一助となるような授業が必要と考えた。

まず、体の変化やイライラ、異性への関心など、思春期ならではの日常の出来事を脳とホルモンの働きから分析し、心=脳であることに気付くようにする。さらに、倫理的、道徳的に判断を迷うような場面を事例として示し、なぜ、自分は正しい判断ができるのかを振り返る。

「友達や親を裏切りたくない」「信頼を失いたくない」「これまでの自分の努力を崩したくない」などの答えは、間違った道をふさぐストッパーである。大切な人がすみ、思い出をしまっている心の場所を「安全基地」と提示し、人生における重要性を伝える。

これまで気付かなかった「心にすむ人」を意識化できる生徒もいれば、そこが空っぽだと気付く生徒もいる。後者の生徒たちには、「安全基地」は今からでもつくることができ、そこにすむ人は家族でなくてもよいことを知ってほしい。
心に「安全基地」があっても、乗り越えることが難しいのが「トラウマ」である。事例の一つにある再トラウマ体験が起こるメカニズムから、心と体がつながらないこともあると理解する。

自傷行為、引きこもり、性化行動、暴力……。人は人で傷つき、人で癒される。決して他人事ではない。環境要因による心の傷が、思春期の脳に及ぼす影響を正しく理解した上で、健全に共生していく方法を探る。

「夢中になれるやつを一緒に探す」「少しでも寄り添って心の余裕をつくってあげる」「ハサミを取り上げて全力で止める」知識は友達へのエンパワメントに変わる。「何でもため込まないようにする」「友達を傷つけない努力をして、そこからちょっとずつ治していく」知識は自身のレジリエンスとなる。

本実践は、授業者である養護教諭が日々個別対応している事例を授業の舞台に乗せ、集団指導へと変換したものである。疾風怒濤に倒れそうになったら、休む場所(保健室)がある。青春時代を安心して駆け抜けてほしいと願う。


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