【大学入試改革を問う(5)】ICTと入試改革

東京大学教授 中村高康
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前回の「主体性評価」の議論では紙幅の都合で触れなかったが、今回はICTと入試の関係を考えてみたい。というのも、この主体性評価をICTの技術を用いて推進しようというのが、当初の文科省の方針であったからである。具体的には導入中止となった「JAPAN e-Portfolio」(JeP)というシステムのことである。これは、受験生がオンライン上でさまざまな活動・学習の履歴や記録をデータとして蓄積し、受験する大学に電子的に送ることができるものとして構想された。

これとは別に調査書の電子化という方向性も打ち出されているが、こちらは学校の業務に関わるものである。一方、JePは生徒本人が入力でき、高校教員も把握しきれない学校外での活動も含め、生徒の多様な活動履歴をカバーできるものであった。

こうしたICT技術の活用は、実現すればとても便利なものであり、今後もどんどん進んでいく可能性が高いが、一方で大いに注意しなければならないポイントもある。

第一に、電子化された情報である以上、情報のセキュリティーに十分な注意が必要だという点である。過去に、民間教育産業で蓄積された利用者のデータが流出した事件もあったように、電子データは抜き取る技術さえあれば一瞬で漏えいする。システムを取り扱う組織には技術的・社会的にかなりの信用が求められるし、重要な個人情報を扱っているのだという倫理観も求められる。

第二に、学校は自校が採用するe-Portfolioシステムに、活動が縛られてしまう面があるという点である。JePは現在でも多くの学校で使用されている別のe-Portfolioと連携できるようになっていたが、Aというシステムを使い始めると、さまざまな付帯サービスや操作性などの観点から、別のBやCというシステムに乗り換えにくくなる可能性がある。これはわれわれが特定のコンピューターやソフトウエアに慣れてしまったときに起こる状況と同じである。その場合、Aというシステムに仕様変更があれば、学校や生徒の方がその変更に合わせるようになってしまう傾向がある。

この第二の点は、そのほかのICT技術についても当てはまる。オンラインでの面接やインターネットを用いた出願システムなど、これからさまざまな形でICTは入試の世界にも入ってくるだろう。その際、ICTシステムに頼るあまり、それに振り回されすぎないようにしたいものである。


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