【学びの危機(9)】どう、支えるのか-理想と現実のバランスから-

津田塾大学准教授 柴田 邦臣
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「ハアハア」と息切れしながらスタジオに戻る。全力疾走したのは、COVID―19 Crisisで引きこもり生活を始めてからは久しぶりだ。別段、体力維持のために運動をしたわけではない。「まなキキ・オンライン社会科見学」の一環として「バーチャル職場体験」のネット中継をするためだ。

「まなキキ社会科見学」のZoomイメージ

Learning Crisisにおいて、特に犠牲になったのは、社会科見学など学外での体験的学習の機会だった。感染症予防と授業時間の確保という事情があるわけだが、だからといって障害のある子どもたちにとって貴重な「体験して学べる時間」を奪ってしまうわけにもいかない。顧みると、2020年度はそんな「理想と現実」とのはざまでの葛藤の連続だった。

そうした中、オンラインでリアルに職場体験をできるように「まなキキ」のスタジオを臨時に「小平市民活動支援センター・あすぴあ」内に設け、配信したのである。しかし、バーチャルな職場見学を実現しようと施設内を歩き回ると、頻繁にネット回線が途切れてしまう。ハイテク中継で盛況を得ていた配信の裏側では、スタッフが電波を維持するべくルーターを持って走り回るというローテクな解決法で、汗を流していたのだった。

未来の「理想のEdTech」では、きっとネット回線の切断そのものが起こらないのだろう。しかし現実は、GIGAスクール構想で配布されたパソコンが「ネットが不安定」「ソフトが入っていない」などの理由で、教室に積まれたままの学校もあると聞く。全ての環境が整うまで待っていては、学校間の、そして子どもたちの間の格差は広がり続けてしまう。この1年だけでも、その学習経験の差は「分断」と呼び得るまで拡大している。

オンライン教育においては、いきなり「理想」を追い求めてはならない。こと「教育」に関してはそうだ。なぜなら、教育においてオンラインはあくまで「道具」であり「手段の一つ」でしかないからである。道具に熟達するための教育は不要だ。「学ぶ中身」があれば、子どもたちは勝手に期待以上の「IT活用者」になるのである。

私たちの全国調査でも「できることからやる」という方針を徹底して、成果を上げている学校があった。オンライン教育では完璧な理想を求めずに、できるところから始め、少しずつ改善していく粘り強い「工夫」が有効だ。「特効薬」も「救世主」も

「魔法」もないし、あるべきではない。それがLearning Crisisの「現実」であり、教育の「本質」なのである。

第3回学びの危機カンファレンス


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