【大学入試改革を問う(7)】大学の専門教育と入学試験

東京大学教授 中村高康
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本連載の第1回で、高校の普通教育的な側面と大学の専門教育との間には本質的なズレがあり、学力の3要素のようなものでは簡単につながらないという趣旨のことを述べた。「高校で学んだことを大学入試でも満遍なく見てほしい」というニーズがあることは理解できるが、大学入試にそれを全て載せていくと、いろいろな矛盾が生じてくる。大学の専門教育に関連性の薄い高校教育の内容も問わねばならないとなれば、おそらく入試問題作成スタッフの確保から、大学は苦労することになるだろう。

また、受験生にとっても実はハッピーなことではない。それだけ対応すべき科目や内容が増えることになるからである。

この問題を理解する上で分かりやすいのが、芸術系や体育系の分野の入学者選抜である。芸術系学部・学科を例に考えてみよう。美術系大学進学者のキャリアを研究している喜始照宣氏によると、芸術系の入試に関しては、英語などの学科試験や小論文、面接なども課されるものの、実技試験の比重がとても大きいと指摘している(喜始2020・「美大(芸術系大学)の受験」中村高康編『大学入試がわかる本』所収)。

実際に、ある私立音楽大学の声楽科の一般入試の内容を見てみると、200点満点のうち150点が実技科目、残りの50点が英語という構成になっている。この例に見られるように、非常に専門性の高い分野であるがため、数学や国語などの一般的な高校での学習科目は対象となっていないのである。

加えて、芸術系大学の実技試験では、一般的に高校教育を超えた課題が課されるという。そのため、「美大の場合は美術系予備校・画塾、音大の場合は専門家によるレッスン」という学校外訓練が必要となっている(喜始同論文より)。

芸術系大学の話は極端な例に見えるかもしれないが、よく考えれば芸術系に限らず、その他の学部でも同様で、どのような専門分野であるのかによって、特定の科目を課したり課さなかったりという組み合わせになっていることを思い浮かべてもらえればよい。つまり、これまでも、そしてこれからも、今の入試システムをとる限り、高校の教育内容全体をそのまま大学入試にすることは現実的選択にならない。一律に同じ理念の下に画一的に制度を強制してもうまくいかない可能性が高いことを、政策立案段階で考慮しておく必要がある。


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