【大学入試改革を問う(8)】大学入試と合理的配慮

東京大学教授 中村高康
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英語の民間試験導入の議論の中で、不安視されていたことの一つとして、「障害のある受験生への配慮が適切になされるのか」という点があった。これまで大学入試センター試験では、視覚障害、聴覚障害、肢体不自由、その他さまざまな障害に対して何らかの対応がなされてきていたが、それと同じことが各民間試験団体でできるのかという疑問であった。とりわけ、スピーキングテストを導入することが主眼でもあったため、吃音や場面緘黙(かんもく)など、話すことに関わる障害も注目され、実際にそうした障害に関わる団体から要望書も出るなど話題となった。

障害のある人々の機会を保障するための社会環境や慣行の変更・調整は「合理的配慮」と呼ばれ、2016年に施行された障害者差別解消法に従い、大学入試でも対応が求められることになった。「合理的」であるかどうかの判断は難しいが、基本的には変更調整の必要性は個々の環境と障害の質によっても変化するため、「それが合理的配慮と言えるかどうかを本人と試験実施者の間で合意形成する必要」があるとされる(近藤武夫、2020、「障害のある人々の受験」中村編『大学入試がわかる本』所収)。

筆者自身も、重度の障害がある受験生の試験について監督業務をしたことがある。守秘義務もあるので詳細は言えないが、可能な限り受験生の権利を守ろうと大学側が努力している雰囲気はあり、まだ十分とは言えないかもしれないが、かつての状況と比べて大きな時代の変化を実感することができた。

その一方で、先ほどの英語民間試験の例ではないが、入試改革の議論にはこうした合理的配慮について、十分にイメージされているのかどうか疑問に思うことも多い。入試に関しては、障害者に限らず、まだまだ弱い立場の受験生に対する配慮に関して、議論を深めていく必要がある。医学部入試で数年前にあった差別的な選抜は論外としても、外国籍の受験生や浪人生への配慮を欠いていたり、地方からの受験者に対して思いが至らなかったりといったことは、ぼんやりしているとやってしまう恐れがある。今後も十分に気を付けながら議論を進める必要がある。

同時に、これらは大学入試だけではなく、教育全体においても同様であり、さまざまな学校段階で検討を継続する必要のある課題である。


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