【ほめ方叱り方(1)】本を出した経緯、反響

モンテッソーリ&レッジョ・エミリア教育研究者 島村華子
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子どものことをほめたり、叱ったりすることは難しいものです。私自身、モンテッソーリ教育の教職課程で、「賞罰は子どもの魂を奴隷にするので使用してはならない」と教わっていました。しかし、新任の頃は知識も経験も足りず、子どもが模範的行動を見せたときにはほめ、そうでない場合は苦言を呈するというやり方で、子どもを自分の思い通りに動かそうとしていました。

実際に「すごいね」とほめると、子どもたちは最初こそうれしそうにしますが、徐々に自分のためではなく、他者から承認されるために何かをやるようになってしまいます。また、罰をちらつかせて一方的に怒ったとしても、子どもたちにメッセージは届かず、関係だけが悪化してしまいます。大人が表面的な行動にこだわると、賞罰というレンズで子どもたちを見るようになってしまうだけでなく、子どもは外的評価に左右され、本来の好奇心や考える力を失ってしまうのです。そういった事実を、教員経験を通じて学びました。

私たち大人は言葉の持つ力を認識し、責任を持つ必要があります。思うように動いたから「良い子」、ただ都合が悪いから「ダメ」という接し方は、子どもを操ろうとする大人のエゴの押し付けです。とはいえ、効果的な声の掛け方や子どもと対話をする方法を私たちは学校では習いません。このため、多くの人が無意識に賞罰を使ったり、おざなりな言葉を発したりしているのです。

誰のための子育てなのか、誰のための教育なのかを見直す必要があると強く感じ、加えて具体的にどんな言葉を発したらよいのかという情報をもっと多くの人たちに共有する必要があると思い、『自分でできる子に育つ ほめ方 叱り方』の執筆に至りました。

コロナでおうち時間が増えたこともあり、本書は子どもとの接し方に悩まれる親御さん向けに、メディアでも多数紹介されています。ありがたいことに「具体的な例が多くて助かった」「子どもと話したくなった」という声をよくいただきます。また、子育てを超えて、ビジネスコミュニケーションでも適用できるという声も数多く寄せられています。

中でも印象に残っている感想は、「子どもの行動の理由や子どもへの期待を改めて考えることで、親子関係が変わった」というものです。大人が愛情をエサにして子どもを操作しようとしていないか、そして何より「子どものイメージ」、つまり本音の部分で子どもをどう見ているのかを見直すことが、小手先のテクニックよりも大事です。その部分を読者の方が感じ取ってくれたことは、非常にうれしいものがありました。

【プロフィール】

島村華子(しまむら・はなこ) 上智大学卒業後、カナダのバンクーバーに渡り、モンテッソーリ国際協会(AMI)の教員資格免許を取得。カナダのモンテッソーリ幼稚園での教員生活を経て、オックスフォード大学にて児童発達学修士、教育学博士号を取得。現在はカナダの大学にて幼児教育の教員養成に関わる。専門分野は動機理論、実行機能、社会性と情動の学習、幼児教育の質評価、モンテッソーリ教育、レッジョ・エミリア教育法。著書『自分でできる子に育つ ほめ方 叱り方』は10万部のベストセラー。

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