【個別最適化された学び(1)】生きるための学びとは何か

株式会社SPACE代表取締役CEO 福本 理恵
この連載の一覧

私の専門領域は「教育」「心理」「食」ですが、これらは「学びとは何か」を模索する中で寄り道した領域です。これらを融合させながら、子どもたちとの学びの実験を通して私が感じたのは、「学びとは、自分を人生の主役として豊かに生きるためのトライアルである」ということ。そして、体と頭と心を作動させて、「感覚」「知識」「価値観」という三つの軸をつくり、磨き上げるのが重要だということです。

第1回ということで、少し私自身の話をさせてください。

私は、進学した教育大学の実習先で、学校になじめない子どもたちと出会い、彼らが気になり、心理学を学ぶため大学院へ進みました。そこでは、発達神経心理学や進化心理学を通じて、愛着形成の機序となる脳科学や、人間が独自に進化させてきた人間特有の認知について研究を行いました。研究を深めるにつれて、人間自体への興味は深まる一方、目の前にいる、今困っている人に具体的な手だてを講じることの難しさも痛感しました。

そこで「日常的に、誰もが幸せを感じられることとは何か」と考え、行き着いたのが「食」です。大学院を中退し、食の専門学校に入ると、「食は、生きるために必要な知恵や技の集積とともに発展したのだ」と、改めて実感できました。学びを豊かにし、幸福な人が育成されるには食が欠かせないと知ったのです。

その後「種から育てる子ども料理教室」を立ち上げ、五感を通して「感覚の軸」を学べる機会をつくりました。次に、知識をどのように活用するのかを生活に根差して学ぶ「Life Seed Labo」を立ち上げました。場所を教室ではなくキッチンとガーデンに、教科書はタブレットに代えて、料理と農作業から教科を学ぶものです。教室に入れない子どもでも、学校で教わる勉強の意味が、生活とひも付けて身に付きます。ここでは「知識の軸」をつくれる場を提供しました。この実践のおかげで、「活動主体の学びはさまざまな特性を持つ子どもにも有効である」と手応えを感じ、2014年に始動したのが「異才発掘プロジェクトROCKET」です。ROCKETでは、子どもたちが学び方・生き方を学び、生きるための「価値観の軸」を見つける場になったと思っています。

これらの学び場をつくりながら、私は「生きるための学びとは何か」という問いに対する真理を追究するために試行錯誤してきたのだと感じています。学校教育の枠にとどまらない、人が幸福に生きるための学びとは何か。その一つの答えが、冒頭にも書いた「自分の中に三つの軸をつくる場を提供する」ことだと考えています。

【プロフィール】

福本理恵(ふくもと・りえ)東京大学大学院博士課程にて認知心理学を研究する過程で体調を崩し、博士課程を中退。それを契機に食の道へ転身し、「種から育てる子ども料理教室」を主宰。12年からは東京大学先端科学技術研究センターに戻り、農と食から教科を学ぶ「Life Seed Labo」を企画。その後、「異才発掘プロジェクトROCKET」のプロジェクトリーダーとして全般を指揮。その間、探究カリキュラムの開発をするとともに、ユニークな子どもたちに寄り添って一人一人が生かされる環境づくりをプロジェクト内で実現する。一人一人を生かす個別最適な探究的学びの設計における知見を生かして、20年8月にSPACEをスタートさせる。国、自治体、企業と恊働しながら、学びの再定義をしながら子どもが主体的に探究する仕組みづくりの実装を提案している。

この連載の一覧