【個別最適化された学び(4)】心が震える瞬間、人は学ぶ

株式会社SPACE代表取締役CEO 福本 理恵
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ROCKETで行われる旅のプログラムは、行き先不明のまま始まります。2017年に行った海外研修「原料・製品・エネルギーを考える旅」も、そうでした。「エネルギー」と聞いた子どもたちは「環境大国」のフランスや、ごみ処理問題が進んでいるドイツなどへ行くのだろうと予測していましたが、出発日に成田空港でもらったチケットの行き先は、まさかの「ムンバイ」。彼らにとって予想外の、インド各地でエネルギーを探す旅が始まったのです。

グラスルーツイノベーションの一例である伝統的な土壁づくり

道中では、高級ホテルに泊まることもあれば、1泊400円の宿に泊まることもあります。そして、さまざまなことを見聞きします。例えば、カースト制度の最下層の人たちによる伝統的な土壁づくりが免疫を上げると最近の科学研究で判明し、こうしたグラスルーツ(草の根)イノベーションが最貧困層から生まれているという話を聞きました。またある時は、沐浴(もくよく)する人がいるガンジス川のほとりで、亡くなった人が焼かれる様子を見ながら魂の行方を考えたりもしました。ある時は道案内してくれた小さな子どもにお金をせがまれ、夜道では牛や犬の気配に注意を払いながら歩くなどその他にも多くの経験を積み、インド中を回りました。そして、その度に「エネルギー」を探すのです。

予定調和なことは何一つ起こらず、行く先々で歓喜、不安、畏れなどが彼らの中に渦巻きます。それらの感情が入り混じり、「エネルギー」というものが表す概念が自身の中でどんどんと転換していきます。「この国のエネルギーは『人のエネルギー』なのか。そうだとしたら、その原料や製品って何?」と。そこで初めて、貧困や他民族・他宗教、法整備の不十分さといったインドの国の特徴が、点ではなく線でつながっていきます。

子どもたちは、旅先で出合う、心を揺さぶる事象に翻弄されつつも、インドと日本という国を比較しながら、自分の立ち位置を見つけていきます。そのプロセスで、抽象的な「エネルギー」という言葉が具体的な出来事とつながり、そして変容していくのです。それはまさに彼らの価値観の変容を促すものでもあり、「突如やって来る衝撃によって、意図せず学びが起こる」プロセスそのものです。

価値観を揺さぶられる場に身を置いたときに初めて、人は自分の根底にある「当たり前」を脱ぐことができます。だから、ROCKETではいつも行き先も目的も伝えないまま、旅に出ます。その旅が子どもたちの価値観を揺るがし、その後の人生を考える問いに出合わせてくれると信じているからです。AI時代に必要な学びは、このように混沌とした、予定調和でない環境から生まれるのではないかと思います。


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