【OECD Education2030(1)】「OECD未来の教育とスキル2030」プロジェクト始動の背景

田熊美保(OECD教育スキル局シニア政策アナリスト)
村尾崇(スポーツ庁競技スポーツ課長、元OECD日本政府代表部参事官)
鈴木文孝(OECD教育スキル局政策アナリスト)
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OECD(経済協力開発機構)と聞いて、皆さんは何を思い浮かべるでしょうか。この問い掛けに、多くの場合、「経済」「統計・指標」「政策提言」「国際合意形成」といった答えが返ってきます。教育関係者の方であれば、主に「PISA(生徒の学習到達度調査)」という返答です。しかし今回は、少し異なるプロジェクトをご紹介したいと思います。「OECD未来の教育とスキル2030」(以下、E2030)です。

本プロジェクトは、2015年に始まりました。当時は、従来から課題とされていた環境問題において、地球温暖化対策に取り組むことを全参加国で約束した歴史的な合意(パリ協定)が採択される一方、世界各地でテロの多発、大量の難民、経済格差の拡大、それに伴う「グローバル化や資本主義の問い直し」が顕在化した年でもありました。また、AIやIoT、ビッグデータなどの技術革新の実用化に伴い、「人間固有の価値」やSNSの普及に伴う「新しい民主主義の在り方」など、既存の社会理念・ルール・文化など根本的な価値観の問い直しの必要性が顕在化した年でもありました。

OECDでは、既に09年から、GDPという経済指標では捉えられない「豊かさとは何か、それをどう測るか」の検討に着手し、11年には「より良い暮らしイニシアチブ」が始まりました。ここでは、「資本」の捉え方も、持続可能な未来の社会を実現するために必要な資源として、「経済資本」に限らず、「人的資本」「自然資本」「社会資本」を含め、未来につながる4つの資本に広がりました。その結果、現在の「より良い暮らし(Well―being)指標」は、従来の雇用・所得・住居といった「物質的な生活の豊かさ」以外に、教育・環境・健康・ワークライフバランス・社会とのつながり・市民参画・生活の安全・主観的幸福など、「生活の質」を表す指標も開発・収集されています。

この流れを踏まえて、E2030参加メンバーは、常に「何のための教育か」「より良い未来を創るために必要な力は何か」という本質的な問いを続け、19年5月、より良い未来を創るために必要なコンピテンシーを提唱した「OECDラーニング・コンパス」を発表しました。世界的に見て、本質の問い直しや抜本的な制度の見直しは、教育分野に限らず喫緊の課題です。今年の世界経済フォーラム(通称「ダボス会議」)でも、新型コロナウイルス感染拡大も踏まえ、人間の幸福のための社会発展と経済成長のためには「グレート・リセット(その場しのぎの措置ではなく、新しい経済社会システムの構築)」が必要と提唱されており、さまざまな制度の見直し議論が行われています。

本連載は、E2030に異なる立場で関わってきた3人による全10回のリレー連載でお届けします。

(第1回担当=田熊美保)

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【プロフィール】

田熊美保(たぐま・みほ)OECD教育スキル局シニア政策アナリスト。1970年、東京生まれ。上智大学卒業。ボストン大学大学院修了。フランス国立東洋言語文化大学大学院修了。国際連合教育科学文化機関(UNESCO)教育セクターを経て、経済協力開発機機構(OECD)へ。OECD教育局教育研究革新センターにおける外務省派遣アソシエートエキスパートを経て現職。現在はパリ在住で、OECD本部で勤務。OECD東北スクールの立ち上げや、移民の教育政策レビュー、ノンフォーマル教育評価政策、幼児教育保育政策分析、eラーニング事例研究などに関わる。現在、OECD未来の教育スキル2030プロジェクトマネージャー。

村尾崇(むらお・たかし)スポーツ庁競技スポーツ課長、元OECD日本政府代表部参事官。74年、京都府生まれ。早稲田大学法学部卒業、政策研究大学院大学修了(修士)。97年、旧文部省入省。福岡県教育委員会義務教育課長、文部科学大臣秘書官、文科省初等中等教育局企画官などを経て、20年2月より現職。13~16年、OECD日本政府代表部(仏・パリ)において一等書記官・参事官として教育関係を担当。

鈴木文孝(すずき・ふみたか) OECD教育スキル局政策アナリスト。78年、愛知県生まれ。東京大学経済学部卒業。02年、文科省入省。同省初等中等教育局教育課程課係長として08年の学習指導要領改訂に携わる。その後、香川県教育委員会義務教育課長、教育課程課課長補佐、財務課課長補佐を経て、19年6月よりOECDで勤務。